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ミサキちゃんは新幹線に乗って

 
 
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午前零時。インターネット・ラジオから松任谷由実の『シンデレラ・エクスプレス』が聴こえてきた。遠い日、シンデレラになりたがっていた不思議な女の子のことが思い出された。

1985年の秋の終わりの七里ヶ浜駐車場で知り合った女の子は1987年のクリスマス直前まで、毎週末大阪から新幹線に乗ってやってきた。私といっしょに週末を過ごすためだ。

女の子の名前はミサキちゃん。彼女の健気さと純真さは宝石のようだった。私が七里ヶ浜駐車場レフト・サイドで取りつく島がないほど機嫌を悪くしたターコイズ・ブルーの1955年式フォルクスワーゲン・カルマンギヤ/type14の脇腹に蹴りを入れ、悪態をついているときにミサキちゃんは現れた。

「カルマンギヤはあなたのキックに耐えられるほど頑丈にできていないわよ」とミサキちゃんは言った。「それと、あなたのバリゾウゴンはひどすぎる」
「罵詈雑言……。ずいぶんと難しい言葉を知っているんだね」
「そうよ。コピーライターだもの。いろんなことを知っていなくちゃね」

ミサキちゃんはこじんまりとした鼻に皺を寄せて笑い、ウィンクをした。まだあどけなさの残る笑顔が胸にずきんときた。『珊瑚礁』で昼ごはんを食べることを私が提案すると、ミサキちゃんはすぐに同意した。

『珊瑚礁』までの坂道をのぼるあいだ、ミサキちゃんはずっとソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』のリフを口ずさんでいた。それはほぼ完璧と言っていいできだった。カリブ海に面した中古自動車屋から聴こえてきそうなほどだ。

『珊瑚礁』の海をのぞむテラス席で、ミサキちゃんはピッチャー・サイズのビールを飲み、ビーフ・サラダをふた皿とエビ味噌カレーを食べ、ときどき気持ちよさそうに風に吹かれていた。そして、自分の23年間におよぶ人生の来し方を語った。

ミサキちゃんは世田谷の用賀で生まれ育ち、幼稚園から大学までお嬢様学校で真綿で首を絞められるようないやな日々を送ったあと、大手の広告代理店にコピーライターとして就職した。

ミサキちゃんの話が人生の行く末におよんだとき、店の天井に据え付けられたBOZEの古いスピーカーから松任谷由実の『シンデレラ・エクスプレス』が聴こえてきた。ミサキちゃんは急に口をかたくつぐんで黙り込み、眼を閉じ、うつむいた。『シンデレラ・エクスプレス』が2番に入ってすぐ、ミサキちゃんの眼から涙がこぼれ落ちた。いくつもいくつもだ。

「純真で健気な女の子になりたいの。これまでの23年間の人生は純真さや健気さとはあまりにもかけ離れたものだったから」
「純真さや健気さとあまりにもかけ離れたきみの23年間の人生はともかく、これからあと、どうする?」
「とりあえず、わたしをシンデレラにして」
「オーケイ。ぼくはきみをシンデレラにする。純真で健気な女の子にも」
「約束よ」
「約束だ」
「王子様の灰皿に誓って約束して」

私はテーブルの隅の無愛想で尊大な灰皿をつかんで胸に当て、右手を上げて『マグナ・カルタ』の第38条をクイーンズ・イングリッシュとラテン語を織りまぜてつぶやいた。

「それ、『マグナ・カルタ』じゃないのよ。裁判権の保障なんて、誓いの言葉にはまったくふさわしくないわよ。それと、あなたのクイーンズ・イングリッシュには退廃と怠惰のにおいがする。ラテン語はだらしない感じがするし」

ミサキちゃんはそう言ってから、ビーフ・サラダのボウルをフォークで3回叩いた。叩くと同時にピンクのウサギが現れて、とても恭しく挨拶をしたので驚いた。ミサキちゃんはその後もときどき風変わりなものを出現させて私を驚かせた。ギリシャ大使館のある坂道の途中で出現させたミニチュア・セントバーナードはいまも私と暮らしている。

青山通りや外堀通りや、ときに三浦半島から江ノ島にかけての海岸線を自転車で走る。真夜中の麻布十番のメイン・ストリートでストリーキングする。根津美術館で『スタン・バイ・ミー』を絶唱する。外交資料館の受付の稲葉さんを沖縄返還にかかわる「機密資料」の開示を請求して困らせる。東京タワーの第二展望台で芝公園を見下ろしながらピクニックする。有栖川公園の薄汚れた池で釣りをする。東レのオフィシャル・ショップで「エクセーヌ」の欺瞞について議論する(赤坂警察署から警察官が駆けつける)。元麻布の毛唐どものハロウィン・パーティに乱入する(私がジャバ・ザ・ハット、ミサキちゃんがR2-D2)。

当然のごとくわれわれのそのような日々にも終わりがやってきた。クリスマスを目前に控えた週末のことだ。別れることについて、私とミサキちゃんは特段の議論をしなかった。私もミサキちゃんもすんなりとその事態を受け入れた。別れの理由はおたがいに「特別なひと」が現れたこと。よくある話だ。


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1987年のクリスマス・イヴを4日後に控えた日曜日の夜。私とミサキちゃんは東京駅の15番線ホームにいた。

「ガラスの靴はちゃんと持っててよ。気を抜くとすぐにこわれちゃうからね」とミサキちゃんは言ってから、キヨスクで買ったソルト・ピーナツをカリカリと音を立てて食べた。私も3粒もらって食べた。

「これからの週末はきっとすごくヒマになる」
「おなじく」
「ねえ、週末だけ会うというのはどうかな? セックス抜きで」
「それはちょっとね。会えばセックスしたくなるわけだし。きみもぼくも」
「そうね。そのとおりだわ」
「そんなのは純真で健気なシンデレラがすることじゃない」
「あなたの言うことはいつも的確で正しい」
「的確で正しくあることはとても疲れるよ」
「ところで、わたしはシンデレラになれたのかな?」
「ぼくの手元にガラスの靴があるところからすると、きみはまちがいなくシンデレラになれたんだよ」
「そう。よかった」
「よかったね。でもね、シンデレラになることより、シンデレラでありつづけることのほうがむずかしいと思う」
「またまた的確だわ。あのね、あなたにはとても感謝しています。ありがとう」
「ぼくのほうこそだよ。ありがとう」
「おねがい。魔法は解かないでおいて」
「うん。そうするよ」


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東京発新大阪行きの最終列車、ひかり289号が東京の街の夜光虫のような光をまとってホームに滑りこんできた。

ミサキちゃんとの別れまで17分。そのあいだ、私とミサキちゃんはときどき見つめあったり、手をつないだり、ピーナツを食べたりした。なにも言葉は交わさなかった。乗車をうながすアナウンスが流れ、新幹線のドアが開いた。ミサキちゃんは背筋をピンと伸ばして新幹線に乗り込んだ。

ミサキちゃんがこぼれそうになる涙を必死にこらえているのがわかった。私が口を開きかけるとミサキちゃんは首をふり、「なにも言わなくていい」とだけ言った。ミサキちゃんの小さくてかわいらしい口元からピーナッツの香ばしいにおいがした。

東京駅15番線ホームに『シンデレラ・エクスプレス』の軽快なメロディが流れ、溜息のような音を立ててドアが閉まった。それがミサキちゃんと会った最後だ。もう25年がたつ。

ミサキちゃんはその後、どのような恋をし、生涯をともにするに値する人生の同行者を見つけることができただろうか? 赤ちゃんは何人産んだろうか? いいおかあさんになれただろうか? たのしい人生を送っただろうか? そして、その年に生まれた世界中のすべての女の子のいったい何人がシンデレラになれたのか? 王子様は現れ、ガラスの靴をシンデレラたちに履かせることができたのか? 思うことはいくらでもある。

ミサキちゃんのガラスの靴は25年の間に行方不明になってしまった。1989年の秋まではマッキントッシュMC275の脇に確かにあったのだが。行方不明になったのは意地悪な姉妹や強欲な義母のせいではない。すべて私の責任だ。責任というより、生き方だ。しかたない。しかし、いつかミサキちゃんのガラスの靴を見つけだし、ミサキちゃんにそっと履かせてあげようと思う。『珊瑚礁』の無愛想不遜きわまりない灰皿と『マグナ・カルタ』に誓って。

新幹線が初代のずんぐりとした0系からシャープな風貌をもつ100系へ、そして300系からエアロダイナミクスの粋を凝らしたN700系になっても、いまもかわらず幾千、幾万のシンデレラたちのときめきやらかなしみやら痛みやらは最終電車に乗って世界中を走りまわっているんだろう。

最終の新幹線だけではない。東海道本線や横須賀線や銀座線の始発やラッシュ時の山手線や京浜急行や東横線や世田谷線や江の電や都営荒川線やアムトラックやユーロ・スターや銀河鉄道に乗って。中国の新幹線にさえ乗って。

ミサキちゃん。そして、世界中のシンデレラたちよ。きみたちが抱えていたときめきやらかなしみやら痛みやらをかけらでもいいからこの先もずっと持ちつづけていてほしい。雨音や雨の匂いや風の歌や会いにいく道すがらのときめきや別れ際の胸の痛みを忘れずにいてほしい。灰になるまで。私が言いたいのはつまりはそういうことだ。

『シンデレラ・エクスプレス』松任谷由実

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