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火処ばしる女

 
 
Erotic_Red Lip
 
 
その昔、横浜の保土ヶ谷駅にほど近い山側に「火戸」あるいは「含所」または「秀所」と呼ばれる集落があって、そこに住まう50がらみの女に逢いにちょくちょく出かけた。吾輩はまだ20代の前半であって精が漲り、迸り出ようとするのを抑えようがなかった。

吾輩は多いときには週に4度も5度も女のところに通い詰め、それこそ朝から晩までどころか翌日までひたすらに女と交わりつづけた。

女は吾輩と出会う1年ほども前に夫を亡くしていて、女盛りの身を持て余す日々を送っていた。女は吾輩を一目見るなり、生唾を飲み込んだ。そして、ただひと言、「したい」と言った。乾くことのない日々の始まりだった。水温む季節さえ炎熱のような乾ききった空気が吹きつけていた。

女があまりに気をやるのと、女の玉門の肥大した陰唇が吾輩の摩羅とともに中に巻きこまれて痛むのでほとほと困り果てた吾輩はいくたりかの「道具」を使う怠惰を犯すようになった。女は初めのうちは悦んでいたけれども、そのうちに吾輩の怠惰、不実を責め立てた。集落の後家のいくたりかと寝たことが女に露見したことで、女の怒りは爆発した。

そして、ついに女の火処が憤怒の炎を噴き出すときがきた。女の火処から熾火のような色をした火焔が噴き上がる態は地獄の業火もかくやとでもいうべきものであった。

女は火焔を吐き出すだけ吐き出すと、さざ波ひとつ立たぬ水面のような褥に長々と伸び、大鼾をかいて寝てしまった。それが生きている女を見た最後だ。そのときに灼けた左肩の焔痕はいまも消えずに残っている。

その後、女はブバカル・トラオレの『マリアマ』がエンドレス・リピートでかかる薄暗く湿った黴臭い部屋で首を吊った。春の盛りのことだ。なぜ女が最後にブバカル・トラオレの『マリアマ』を聴きながら果てたのかは、いまだにわかっていない。

生前、女の口から音楽の話が出たことはないし、女がブバカル・トラオレを知るはずもない。あるいは、ブバカル・トラオレの悲しげな歌声に魅入られでもしたか。謎が解けることは今後もあるまい。


ブバカル・トラオレが「ピエレット。ピエレット。道化。道化」と歌っている。道化た椿事でも起きて世界が一瞬にして滅ぶことを願う春の宵だ。


Mariama - Boubacar Traoré [1990]



     
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