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百年の孤独を死んだガルシア=マルケスを悼み、『マタイ受難曲』を聴く

 

García Márquez
 

緑の家の居間でマジック・マッシュルームをポワレしながら、百年の孤独の王の死の意味を思いながら無聊を託つ。これでまた世界は豊饒なる魂をひとつ失った。

ガブリエル・ホセ・ガルシア=マルケス。ある時期、わたくしにとって百年の孤独の王/迷宮の将軍は緑の家の家主であるバルガス・リョサとともに世界をヴァガボンドするための羅針盤であり、里程標だった。退屈で辛気くさい世界と対峙するのに「マジック・リアリズム」くらい都合のいい手法はないように思われた。


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ガルシア=マルケスが身罷って、わたくしは今とても寒々しい。一昨晩は心がざらついて寝つけなかった。明け方ちかく、やっと眠気が訪れた。
iTunesのクラシック音楽リストを呼び出してオートプレイに設定し、傍らのソファに横になった。軋む魂を鎮めるために1939年4月2日アムステルダムの奇跡、ウィレム・メンゲルベルク指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のJ.S.バッハ『マタイ受難曲』を聴く。当然に傾ける杯には宮崎の大麦焼酎『百年の孤独』から注がれた野うさぎの走りにも似た淡い琥珀色の甘露が満たされている。
酔いどれてやれ。今はとことんまで酔いどれていいときだ。今を置いては深く酔いどれることができる日は遠い先まで来ない。


Willem Mengelberg20140419


昼すぎ、深い古井戸の底に幽閉される夢にうなされて目が覚めた。J.S.バッハの『マタイ受難曲』第20曲、「われ、イエスのみもとに目覚めおらん」がかかっていた。眼の周辺に常にある熱っぽさがない。めずらしいことだ。キーボード脇に置かれたマグカップを手に取り、冷めたコーヒーをひと口飲む。まずい。だが、ないよりはましだ。たばこを3本、立てつづけに吸い、テノール独唱とコラールの美しく悲しげなアリアに耳を傾けながら、さらなる意識の覚醒を待つ。

第二次世界大戦前夜の聖金曜日に録音されたウィレム・メンゲルベルク指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の『マタイ受難曲』。「聴衆のすすり泣きが聴こえる」とも言われる演奏である。
冒頭の合唱、「娘たちよ、いっしょに来て嘆きなさい」から、ただならぬ雰囲気だ。1939年4月2日、アムステルダムで録音されたこの演奏には特別な空気感が漂っている。ナチス・ドイツの脅威がヨーロッパ全土を覆いつくそうとしていた時期であることを思えば、「特別な空気感」の意味がわかる。創造はいつも時代とともにある。

メンゲルベルクのバッハ解釈はロマンティックで、1小節ごとに激しくテンポが揺らぎ、入れ替わり、交錯し、やがて、あやうい美しさを醸しだす。厳格で権威主義的なよそゆき顔のバッハではなく、生きることや死ぬことに否応なくまとわりつく痛みをともなったバッハだ。
死と向かい合う者たちの祈りにも似たコラール。自らの罪の深さに震え戦き、イエスの死の悲嘆と慟哭にくれる静謐なアリア。曲が進むにつれ、聴衆のすすり泣きがかすかに聴こえはじめる。

最後の晩餐。弟子の裏切り。群衆の罵声と嘲弄。十字架の軛。原罪。そして、キリストの死。それらを描いたバッハの最高傑作と演奏者と聴衆が真っ正面から対峙している。精魂をこめた名演である。奇跡のひとつのかたちがここにある。
空前の名演といわれる1958年のリヒター盤にはない「救いのない絶望」がメンゲルベルク盤の白眉である。楽譜が指定したテンポ、強弱、アーティキュレーション、装飾記号などは一切無視、度外視。古典音楽の常識は軽々と乗り超えられ、不安と悲痛と絶叫が交錯し、支配する。

エリ・エリ・レマ・サバクタニ 。神よ、なぜわれを見捨てるのか。

絶叫が受難のリアリティであり、われわれを逃げ場のないところへ追いつめる。イエスというひとりの人間の死とドラマトゥルギーに引き込まれることで、イエスの死の現場に立ち会っているがごとき感動に包まれる。

『マタイ受難曲』(Matthäus-Passion/BWV244)は新約聖書「マタイによる福音書」中の「キリストの受難」を題材にとっている。J.S.バッハの最高傑作ともいわれ、しばしば、古典音楽、西洋音楽の最終解答、真の到達点とさえ評される。第68曲「われらは涙を流して跪き」の終結合唱によって壮大な受難の叙事詩は終わりを告げる。泣きはれた眼で窓外を見れば、空が赤く染まっていた。


One Hundred Years of Solitude-Picture


百年の孤独の王/迷宮の将軍よ、静かに眠れ。千年後にも百年の孤独の王/迷宮の将軍の魔術は解けぬ。静かに百年の孤独の痛みとともに眠ることにしよう。




     
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