FC2ブログ

Entries

根岸線とジョニ黒と『善悪の彼岸』

 
 
NEGISHI LINE
 

昔々、横浜で。


根岸線。そう口に出すだけで甘酸っぱくなつかしい気分になる。桜木町止まりだった京浜東北線が磯子まで延長になったときは開通式典に物見遊山で出かけたものだ。まだ洟垂れ小僧の私には生まれてはじめての一大イベントだった。磯子の駅前が大きな舞台のように見えた。横浜市消防局の音楽隊が景気のいい音楽をジャカスカ鳴らしていた。色とりどりの風船が舞い踊っていた。どいつもこいつも幸せそうだった。

宙を舞う風船を追いかける私。
宙を舞う風船を追いかける私を追いかける母親。
それをクールにみつめる生物学上の父親を名乗る男。

生物学上の父親を名乗る男はろくでなし放蕩三昧の穀潰しで、おまけにまったくもっていけすかない奴だったが、そのクールさに免じてゆるしてやろう。

洟垂れ小僧の私と、まだ若く美しく健康そのものの母親と、いつも眉間にしわを寄せていたろくでなしの生物学上の父親を名乗る男。母親との数少ないが宝石のごとき輝きを放つ思い出と、体中が緊張し、身構えてしまうような、生物学上の父親を名乗る男とのいやな思い出のふたつが交錯する日々がよみがえる。

生物学上の父親を名乗る男のつまらぬ夢のおかげで、私の母親は夢をあきらめ、輝きを失い、本来の寿命より30年もはやく逝った。私もずいぶんといやな思いをしたが、もうそろそろゆるしてやろう。すべては終わったことである。すべては夢のまた夢になろうとしているのだ。

夢はときとしてだれかを傷つける。そのことを教わったと思えばいい。背中しか見えなかったのは、私に背を向けていたからではなく、私とおなじ方向を見ていたからだと思えばいい。

生物学上の父親を名乗る男死して、9年。墓参はもちろんのこと、葬儀にすら背を向けてきた。もういい。もう手仕舞いの頃合いだ。潮目潮時である。死者を鞭打つのは姑息臆病な下衆外道のやることである。

この春、陽気のいい日。虹子と一番弟子のポルコロッソといっしょに生物学上の父親を名乗りつづけた男、わが親父殿の墓参りにいこう。わが親父殿が愛飲したジョニ黒を持って。わが親父殿が愛読した『善悪の彼岸』を携えて。なつかしい根岸線に乗って。


johnniewalkerblack01_20140330150614085.jpg Nietzsche_Bomb500PX.jpg


大連慕情 - 松任谷由実





     
    関連記事
    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
    http://diogenezdogz.blog.fc2.com/tb.php/769-aa0a7715

    トラックバック

    コメント

    コメントの投稿

    コメントの投稿
    管理者にだけ表示を許可する

    Appendix

    プロフィール

    自由放埒軒

    Author:自由放埒軒
    Festina Lente.
    No Pain, No Gain.
    Fluctuat nec Mergitur.
    R U Still Down Gun 4?
    玄妙の言葉求めて櫻花
    薄紅匂う道をこそゆけ

    最新トラックバック

    カテゴリ

    Festina Lente.

    R U Still Down Gun 4?

    カレンダー

    11 | 2019/12 | 01
    1 2 3 4 5 6 7
    8 9 10 11 12 13 14
    15 16 17 18 19 20 21
    22 23 24 25 26 27 28
    29 30 31 - - - -

    アクセスランキング

    [ジャンルランキング]
    小説・文学
    372位
    アクセスランキングを見る>>

    [サブジャンルランキング]
    オリジナル小説
    47位
    アクセスランキングを見る>>

    QRコード

    QR

    樽犬の子守唄

    Didie Merah
    Blessing of the Light

    樽犬が全速力で探します。