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ヌーヴォ・リブロ・パラディーゾ#4 想像力と、数百円。

 
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 こまっしゃくれたブンガク青年かぶれだった頃、懐にいつも文庫本を忍ばせていた。それは坂口安吾の『堕落論』であったり、アルベール・カミュの『異邦人』であったり、大江健三郎の『セブンティーン』であったり、村上春樹の『風の歌を聴け』であったりした。それらのたった数百円で手に入れることのできた文庫本は、当時の私をあたかも必殺無類の名刀を持っているような気分にしてくれた。
「こいつさえあれば世界のすべてをチャラにできる」
 そんな青臭くも危うい気持ちにさせてくれたのがGパンの尻のポケットに突っ込まれたり、丸められたり、鍋の下に敷かれたりしてボロボロになった文庫本である。文庫本は当時の私の戦友であったと言っても過言ではない。

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「文庫」という言葉に出会うといまでも当時の自分を思い出す。カネがなかった。いつも腹をすかしていた。誰彼かまわず喧嘩をふっかけていた。「青春の彷徨」などと言えば聞こえはいいが、ただ貧しくやみくもな苛立ちの中で生き急いでいたにすぎない。だが、それでもホンモノのなにごとか、手応えのある生きざまのようなものを手探りで求めていたことに変わりはない。そのような自分が愛しく思える。そして、そんな私のかたわらにいつも文庫本があった。

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 当時愛読した(「愛持した」と言ったほうが正しい)文庫本を書架の奥から引っぱり出してはパラパラとページをめくることがある。どれにも傍線や書き込みが脈絡もなく乱暴にされている。故意に引きちぎられたページさえある。薄よごれ、カビ臭く黄ばんだちっぽけな文庫本が言葉にならない当時の思いを甦らせる。心がザラついているときなどそれを懐に忍ばせてみる。途端に世界をチャラにできるような気分になってくる。文庫本はいまも私のドスなのだ。

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