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ソバージュネコメガエルの実存の最先端#2

 
 
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 葬儀の段取りや親戚、友人知人への連絡、形見分け、生命保険金の請求手続き、役所への死亡診断書の届出など、虹子が生き返るまでの2日間は目がまわるほど忙しかった。実際に目がまわって3回気を失った。昏倒した私を介抱する虹子の妹のナオちゃんの巨大な乳房が顔にこすれるのはとてもいい感じだったが、そのあとセックスしてしまったことについては大いに反省しなければならない。
 マーカス・デュ・ ソートイ教授が手なずけた複素数猿デュオのヨタ&ヨクトが苛立たしげに奏でる『素数の音楽/ノンブルのソネット』が荘重軽薄に流れる中、山あいのけむり棚引く火葬場で虹子の葬儀は始まった。
 焼かれて小さな骨になってしまう虹子のことを考えると無性にうまい棒のシュガーラスク味が食べたかった。挨拶回りや初七日や忌明法要や四十九日や一周忌のときに着る服を考えるのはちょっとだけたのしかった。しかし、ちょっとだけだ。
 まさに棺桶がロストル式の火葬炉に納められようとしたとき、どんどんどんと音がした。棺桶からだった。その場にいた全員が驚いた。中にはその場で凍りついてガリガリ君のミツユビナマケモノ・ポタージュ味に変身し、その薄情そうな薄い唇から味の素の冷凍餃子を吐き出す者すらいた。無理もない。当然ですらある。それで驚かないのはミツユビナマケモノ本人か細木数子か野村沙知代くらいのものだ。
 腰を抜かしてくそを漏らすやつが3人いた。臭いったらありゃしない。火葬場でくそを漏らすような不届き者はこの世界から物静かに退場したほうがいい。永遠に。人生はそれほど甘くない。甘くないのだから、せめて臭くてはいけない。世界はそんなふうにできあがっているはずである。
 火葬場の職員がバールやら釘抜きやらを使って大慌てで棺桶をあける。虹子の兄弟や親戚、友人たちが一斉にのぞきこむ。私は彼らの隙間から遠慮がちに。しかし、内心はwktkわくわくどきどき。「こりゃ、おもしろい展開になりやがったぜ」と胸は高鳴るばかりだ。棺桶の中でかすみ草に埋まった虹子は満面の笑みを浮かべ、こちらを見ていた。
「うへへへへ。死んじゃった。でも、生き返ったから怒らないであげてね」
 虹子は言い、のぞきこむ者たちの中から私を見つけた。そして、舌をぺろんと出した。虹子の舌はきゅうり色に染まっていた。「虹子ちゃん。べろが緑色だよ。すごくへんだよ」と私は言った。虹子の棺を取り囲む者どもがげらげらげらげら笑った。火葬場で大笑いしている集団は周囲にはどんなふうに映ったんだろう? あまりの悲しみに集団ヒステリーを起こしたか、不気味なカルト教団と思われたにちがいない。

 生き返ってからはもっと忙しかった。一番厄介だったのは区役所だ。合計9回足を運ぶ羽目になった。また「きゅう」だ。9回のうち、4回はメジャー・リーグに行ったダルビッシュ有のこと(惜しい!「ダルビッシュ球」だったら、また「きゅう」だったのに。実に惜しい!)、2回はいかに公務員がいわれなき誹謗中傷を受けているかについて区役所の居心地の悪い窓口で担当の戸籍係から聴かされた。
 9回目、「前例がありませんのでねえ」と、とても顔色が悪くて口の臭い戸籍係は言い、行政実務法令集をめくった。こいつも世界から物静かに退場したほうがいい。こいつのおかげで世界は2パーセントくらい悪くなっている。
「前例があろうがなかろうが死んだものは死んだんだし、生き返ったものは生き返ったんだからなんとかしてくださいよ。なんなら、生まれたことにしてもらってもいいし」
「その手がありましたか! わかりました。では、出生届を提出してください」
 戸籍係の口から猛烈な勢いでいやなにおいが吹き出る。顔をそむけても襲いかかってくる。息を止めても強引に鼻腔の中に押し入ってくる。シュールストレミングやカオリフェよりはましだが、まちがいなくエピキュア・チーズより臭い。アラバスター単位で3000くらいはありそうだ。「こいつなら悪臭強盗ができるな」と思う。
「あなた、それ、本気で言ってるの? 出生届を出せって」
「もちろんです。戸籍係はうそと冗談を言ってはいけない規則になってますのでね」
「どんな規則だよ、まったく。で、父母の欄にはなんて書けばいい?」
「まあ、適当に。奥様の御両親でいいんじゃないですかね」
「二人ともとっくの昔に死んじゃってるけど」
「ああ、それはそれは御愁傷様なことで。そうなると、話はちょいとばかり複雑になってまいりますなあ」
 そんなようなやり取りを繰り返して、虹子はやっと戸籍上も生き返った。




     
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