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昔々、横浜で ── リキシャ・ルームで人生最大の恐怖と幸福を味わった瞬間

 

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 遠い日の冬。私は20歳になったばかりで、ビートニク・ガールとは3度目の絶交期に入っていて、高校1年のときから応募しはじめた群像新人賞に5回連続して最終選考で落とされ、挙げ句の果てにはナイーブ・ロースハム系ウガンダ人のハルキンボ・ムラカーミというスパゲティ野郎にまんまと群像新人賞をかっさらわれ、世界やら人間やらに対して希望と信頼を失いかけていた。「スパゲティ・バジリコ」なんて存在すら知らなかった。つまるところ、名もなき青二才だったというわけだ。
 横浜馬車道にある有隣堂ユーリン・ファボリ店でスタッズ・ターケルの『仕事!』とマーティン・バークの『笑う戦争』のどっちを買うか迷っているうちに閉店時間が来て、結局、両方とも買えず、1階にあるゲーム・センターでスリー・フリッパーのスペース・シップに有り金のすべてをつぎ込んだ。TILT連続17回のおまけ付きだった。
 なんの罪もないピンボール・マシンを蹴飛ばしたことにはいまでも胸が痛む。しかも、スリー・フリッパーのスペース・シップ。スパゲティ野郎の呪いだ。ゲーム・センターを出るとき、これみよがしに舌打ちを5回してから、猛然と日本大通りを目指した。元町のトンネルの手前でダッフル・コートのフードをすっぽりとかぶり、本牧までとぼとぼとぼとぼ歩いた。世界や人間が無性に腹立たしかった。スパゲティ野郎には憎悪すら感じていた。


Golden_Cup800PX20131114.jpg


 麦田の交差点の信号機が爆音を発して破裂した顛末を見届け、イタリアン・ガーデンやゴールデンカップやリンディやアロハ・カフェのドアを開けただけで中には入らず(リンディの店の外壁に突入している黄色いフォルクスワーゲン・ビートルのオブジェにはいつもどおりのチャランボ蹴りを入れてやった)、本牧亭の肉うま煮丼とサンマー麺の混じった匂いに気を失いかけ、ついには小港のリキシャ・ルームで無銭飲食するつもりでカウンター席に座り、ジム・ビームのダブルのオン・ザ・ロックスを5杯飲んだ。


LINDY800PX201311140.jpg


 いよいよ無銭飲食決行を決意したとき、頬に深い疵のあるバーテンダーが抑揚のない声で、「きょうはおごってやる。きょうだけだぞ」と言って、私の前に6杯目のジム・ビームのダブルのオン・ザ・ロックスを置いた。今に至るも、それは人生最大の恐怖と幸福を同時に味わった瞬間だった。あの瞬間の痕跡を探しに、いつか、ビートニク・ガールを伴ってリキシャ・ルームを訪ねたいものだ。ひょうきん者のジミーが5ドル札3枚分の嘘くさい笑顔をふりまく本牧埠頭D突堤の付け根にあるシーメンス・クラブにも。


SEAMENS_CLUB800PX20131114.jpg





     
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