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Misty Night in Paris#1 霧の深い夜は肉がよく切れる。

 

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 霧の深い夜。パリ8区、パリメトロ13号線のシャンゼリゼ=クレマンソー駅近く。1954年に一家7人が惨殺体で発見された。当初から物盗りの犯行でないことはあきらかだった。1954年の秋から1958年の冬にかけて手口の酷似した殺人事件が正確に3ヶ月に1度の間隔で発生。パリ市民を震え上がらせた。容疑者としてリストアップされた人物は20万人におよんだ。パリ警視庁の威信をかけた捜査もむなしく、18件の事件はすべて時効が成立し、迷宮入り。のちに『衝動と持続』でボンクーラ賞を受賞するロブ・ポワレ氏が重要参考人として長期間にわたる取り調べを受け、徹底的な行動確認が行われたが同氏の犯行を裏付ける証拠は出ないまま事件は迷宮入りした。
 ロブ・ポワレ氏の『衝動と持続』は一連の事件を題材としており、いわゆる「衝動殺人」を連続して犯す若者の内面を冷徹な筆致で描き、J.P. サルトル、アルベール・カミュ、A. ロブ=グリエ、ロラン・バルト、ジョルジュ・バタイユらの絶賛を浴びた。アルベール・カミュは大破したファセル・ヴェガの車中で息を引き取る間際、うわ言で「犯人はロブ・ポワレだ。奴を黒幕のグルといっしょにグリエしろ」と繰り返したと言われている。『衝動と持続』の中には犯人でなければ知りえない「秘密の暴露」とも言えるような記述もあったが、なぜかパリ警視庁の精鋭捜査官たちはこの点についてロブ・ポワレ氏を追及することはなかった。背後にコンベルソ問題があったのではないかとの指摘もある。
 ロブ・ポワレ氏の犯行を疑う声はいまも根強くある。ロブ・ポワレ氏は現在、イル・ド・フランス、セーヌ=サン=ドニ県のイットビル村で42頭のスコティッシュ・ブラックフェイスと54頭の虹のコヨーテ、そしてグリエされた「魚のしるしを持つ者」の頭蓋骨とともに静かに余生を送っている。
 この話はロブ・ポワレ氏に「事の真相」について直撃することを目的とする。画像は記念すべき連続殺人第1回目の「一家7人惨殺事件」の現場の家の現在の姿である。撮影の夜は当時とおなじ霧の深い夜だった。私はこの家に1958年の冬から1964年の春まで母親と二人で暮らした。

 'Round About Midnight, Misty Night, Meat Night. 霧の深い夜は肉がよく切れる。


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 飾り窓の女から生まれ、ルンペンに育てられた男


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 私は飾り窓の女から生まれ、ルンペンに育てられた。揺りかごはメトロの廃駅だ。母親は私を生んですぐに死んだ。父親の顔も名前も知らない。


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 ロブ・ポワレ氏の『衝動と持続』はこのような書き出しで始まる。ロブ・ポワレ氏の母親はピガールの娼婦だった。ブリュッセルの飾り窓の女からさらに落魄れてパリに流れ着き、街娼となった。彼女は梅毒という呪われし病に蝕まれていた。ロブ・ポワレ氏を出産直後に死亡。梅毒の末期だった。ロブ・ポワレ氏は母親の顔も声も知らない。ロブ・ポワレ氏を形づくっているのは欠落、あるいは欠如だ。さらにロブ・ポワレ氏はつづける。


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「おまえに父親はいない。おまえの母親は処女懐胎したのだ。ジュリエット・グレコに似た知性のある美しい人だった」と元コレージュ・ド・フランスの哲学科の教授は言った。彼はルンペン仲間から「プロフェッサー」と呼ばれていた。私を育ててくれた大恩人だ。クロード・ラヴィ=シュトラウス。17歳の夏、私は彼を殺した。私の初めての殺人だった。今でもメトロのサインを見るたびに少しだけ胸が痛む。ほんの少しだけ。しかし、後悔も反省もない。死すべき者が死んだだけのことだ。死に至る経緯にはなんらの意味も価値もない。


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