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あれはよく晴れた初秋の日曜の午後だった。Early Autumn - Mezzoforte

 
 
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1982年のよく晴れた初秋の日曜の午後。世界はとても穏やかで、爽やかで、慈しみさえ感じられた。ベトナムの泥沼劇は何年も前に終息していて、チェルノブイリの大惨事はまだ起こっておらず、9.11も3.11も遥か先のことだった。このまま世界は平穏にありつづけるのではないかと思えた。

信じられないことに、吾輩はすでに3人の女の子の父親になっていた。さらに信じがたいのは、その3人の女の子が可愛くて仕方なくなっていることだった。

エゴイズムの権化とも言いうるような自分が、自分以外の他者について彼らを守るためなら自分の命と引き換えにしてもいいとすら思っていた。本来の自分と、それとは別の「生きもの/動物としての自分」に引き裂かれながらも、吾輩は言葉には表現しにくいたぐいの幸福を感じていた。幸福だって!? まったく信じがたいことだ。

そう。あれはよく晴れた初秋の日曜の午後だった。吾輩と3人の女の子を含む吾輩の家族、一族は横浜根岸台の横浜港を一望できる大層な洋館の庭にいた。

一族のうちでもっとも吾輩と気の合わない妻の叔父にあたる不動産業で財を成した男が毎秋催すガーデン・パーティだった。

とりなす妻にもかまわず、吾輩は嘘くさい笑い顔と笑い声の輪から距離を置き、横浜港をひっきりなしに行き来する貨物船と三人の女の子を交互に眺め、意味なく高価な、しかし、ほどよく冷えたブルゴーニュのグラン・クリュ・クラッセの白ワインの杯を重ねていた。

きれいごととおべんちゃらとおためごかしとおべっかまみれの宴が始まって1時間も経った頃だった。これ見よがしに置かれたタンノイのエジンバラからアコースティック・ギターによる実に耳心地のよい音楽が聴こえてきた。ガーデン・パーティを取り仕切っていると思われる男に曲名とミュージシャン、そしてアルバム名をたずねた。Mezzoforteの『Early Autumn』だった。まだ日本未発売だった。

「フュージョンがお好きなんですか?」
「ええ、まあ。質のいい良心的なフュージョンは」
「私もです」

瞳に冥さと悲しみと爽やかさを同居させた男は言った。のちにカルロス・トシキ&オメガトライブのギタリストとなるK-Tだった。K-Tとはその後、いい友情を育むこととなるが、それはまた別の話だ。

吾輩はK-Tに頼んで、『Early Autumn』をリピートでかけてもらった。気の利くK-Tは『Early Autumn』のみをカセットテープのAB両面に録音して、帰りがけにそっと手渡してくれた。

オメガトライブ脱退後のK-Tの孤独と困難と困憊にはとても心が傷んだが、風の便りにいまでも音楽表現者として地味だが地道に誠実で良心的な仕事をしていると聞く。

Mezzoforteの『Early Autumn』を聴くたびにK-Tのことを思いだす。あの穏やかで爽やかで慈しみさえ湛えた1982年の初秋の日曜日の午後を。K-Tの人生の日々、景色がMezzoforteの『Early Autumn』のように、豊穣の月のようにあればいい。そんなことを思うギボス・ムーンの夜である。


Early Autumn - Mezzoforte




     
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