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The Innocent Age#2 バンド・リーダーの贈り物

 

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 だれもが、一度は「無邪気な時代」を通過する。善人づらした卑劣漢であってもだ。E-M-M

 旅のさなかにある者と癒えぬ傷を抱えた者だけが『バンドリーダーの贈り物』に涙する。E-M-M


 ダン・フォーゲルバーグが死んで6年になる。ダン・フォーゲルバーグの『The Innocent Age』で『Leader of the Band』を初めて聴いたときは渋谷のタワーレコードでバイトをしながら、あるバンドでサックスを吹き、ギターを弾き、歌をうたっていた。どういった風向きだったのかはわからないが、1曲だけミリオン・ヒットした。ミリオン・ヒットした年の冬にバンドをやめ、東京を去った。

「ホカ・ヘイ! ヤタ・ヘイ! アヒェヒェ!」がバンド・リーダーの口ぐせだった。意味をたずねてもポカホンタスとの約束だからと教えてくれなかった。

「故郷へ帰るよ。もう、東京はじゅうぶんなんだ」
「そうか。帰るか。帰るのか ── 。おまえはよくやった。おまえのおかげでおれはしこたま儲けた。だから、おまえはなにひとつ恥じることはない」
「ありがとう、ボス。本当にありがとう」
 年老いたバンド・リーダーはギター・ケースからやつれた楽譜の束を取り出した。眼のまわりの隈は濃く、皺は深い。
「だが、おまえはあのとき、やつをぶん殴るべきだった。そのこと以外は、おまえは合格だ。100パーセントだ」
 バンド・リーダーは楽譜を愛おしそうに撫で、溜息を2度つき、それから眼を閉じ、さらに溜息を3度つき、私をみつめた。
「これをおまえにくれてやる。いつかの遠い日の夏にオレ様がつくった歌だ。心さびしいときにでも歌ってくれたなら、おれはすごくうれしい・・・」
 楽譜の束を受け取り、さっと目をとおす。ところどころ、涙の跡とおぼしきものがある。まちがいない。あれはバンド・リーダーの涙の跡だったんだ。
「さあ! さあ! とっととおさらばしやがれ! 物静かに退場しろ!」

 30年が経つ。私は黄ばんだ楽譜をいまもときどき取り出し、ギターを弾き、歌う。風の便りでバンド・リーダーの死を知ったが、季節の変わり目にほんの少し泣くだけだ。
 ネットで調べて、「ホカ・ヘイ! ヤタ・ヘイ! アヒェヒェ!」の意味がやっとわかった。「戦うにはいい日だ! 死ぬには手頃な日だ! ありがとう!」だ。

*Daniel Grayling "Dan" Fogelberg (August 13, 1951 – December 16, 2007)。彼が死んで世界からはいくぶんかの「やさしさ」が失われた。12月で6年になる。『Same Old Lang Syne』の最後で、ソプラノ・サックスで『Auld Lang Syne(蛍の光)』を演奏しているのはやはり2007年に死んだMichael Brecker(March 29, 1949 – January 13, 2007)だ。無邪気だった頃の私になにかしらの力を与えてくれたふたつの魂は奇しくもおなじ年に死んだ。世界はそのようにしてますますつまらなくなっていくんだろう。仕方ない。そんなめぐり合わせなんだ。配られたカードを交換することはできないし、どんな「最終解答」が待ち受けているとしても、このままゲームをつづけるしかない。ゲームからおりるほかに手はあるんだろうか?
 
背景音楽:Dan Fogelberg - Leader of The Band




     
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