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ビリー・ホリデイに取り残されて。マル・ウォルドロン『Left Alone』

 
 
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葬送/野辺送りの調べのようなマル・ウォルドロンのピアノにつづくジャッキー・マクリーンの出だしの1章節を聴いただけで完全にノックアウトだった。より厳密に言うならば、ジャッキー・マクリーンの最初の3音。パピポー。あの3音だけで脳味噌を鷲掴みにされ、ぐらぐら揺さぶられた。

『Left Alone』におけるジャッキー・マクリーンの影響で、最初に手に入れたサクソフォーンはアルト・サックスだった。「パピポー」の「ピ」のところは左の親指でオクターブ・キーを押さえて1オクターブ上げる。単純。シンプル。O Sancta Simplicitas!

ある友人の結婚披露宴で「結婚が人生の墓場であるとは古来よりの定説なので、これに従い、セメタリーへ入定せんとする長年の友人である君に葬送/野辺送りのうたがわりに贈る」と前置きスピーチし、『Left Alone』を吹いた。大顰蹙だった。当然だ。和気藹々とした空気が、『Left Alone』のメロディが会場に響きわたると同時に一変した。泣きだす者もいた。その友人は先頃、癌との長い闘病の末に死んだ。奥方を一人残して。

レフト・アローン。ジャッキー・マクリーンのアルト・サックスが泣いている。マル・ウォルドロンのピアノも泣いている。ベースもドラムスも泣いている。

『Left Alone』はビリー・ホリデイ作詞/マル・ウォルドロン作曲。ビリー・ホリデイに先立たれ、取り残されたマル・ウォルドロンの慟哭だ。

マル・ウォルドロンは1957年、31歳のときにビリー・ホリデイの伴奏者に大抜擢され、1959年に彼女が他界するまで影のように寄り添った。『Left Alone』のジャケットを見ると、ビリー・ホリデイがまるで亡霊のようにマル・ウォルドロンの脇に立っている。

ある時期、知り合って間もない人物の魂の質を見きわめるために、なんらの前置き、説明なしで『Left Alone』を聴かせていた。男も女もだ。

泣くかどうか。泣けば合格。ソウル・ブロー。魂風呂にだって一緒に入る。泣かなければ不合格。以後は一切付き合わない。傲岸不遜きわまりないが、人物の魂の質を見きわめることについてのやり方は、いまも当時とそれほど変わっていない。当時とちがうのは生身の人間とはよほどのことがなければ顔を合わせなくなったことだ。

師匠や弟子や相棒や親友や仲間が随分と死んだ。平均寿命の半分も生きなかった者たちばかり。生き急いででもいたか。中には死に急いだ者もいる。

人間は死ぬし、病気になるし、衰えるし、変節するし、手の平を返すし、背を向けるし、裏切る。生きつづけるというのは誰かに取り残され、死ぬというのは誰かを取り残すことでもある。

吾輩はこどもの頃とほとんど変わっていないので、自分一人が取り残されているような気分がずっと続いていた。そのことは、年齢を重ねるにつれていや増す。だから、極力、人とは会わない。生身の人間に対する興味を失ったこともあるが、それだけではない。取り残されるのはもう御免だ。


Left Alone - Mal Waldron
Released: 1959
Recorded: February 24, 1959
Genre: Jazz
Length: 38:11
Label: Bethlehem
Producer: Teddy Charles


Personnel
Mal Waldron – piano
Jackie McLean – alto saxophone (track 1)
Julian Euell – bass
Al Dreares – drums


Left Alone - Mal Waldron




     
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