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真言の音楽#23 疾走する二人のセロ弾き 2CELLOS

 
 
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東欧からものすごい表現者が出現した。2CELLOS. ルカ・スーリッチ(Luka Šulić)とステファン・ハウザー(Stjepan Hauser)のデュオ。スロベニアとクロアチアの旧ユーゴスラビア出身の2人組だ。インターネットの一大鉱脈のうちのひとつであるYouTubeから発掘された。2台のチェロだけでマイケル・ジャクソンの『Smooth Criminal』を演奏した映像/音声によって。粗末な身なり。背景に映る薄汚れた部屋。しかし、パフォーマンスは衝撃としか言いようのないものだった。

2CELLOSがわれわれの前に姿を現した事態はデビューでも登場でもなく、出現である。あるいは事件

宇多田ヒカルが『AUTOMATIC』を引っさげて腑抜けた日本の音楽シーンに殴り込んできたときも出現/事件だと思った。インターネット黎明期だった。

光回線もブロードバンドもADSLすらもない時代。せいぜいがISDNだった。そして、インターネットの接続料金は従量制。「テレホーダイ」などというまやかしが幅を利かせていた。

PCの性能もお粗末きわまりなかった。Macの標準的なモデルのHDの容量は1Gもなかった。CPUの処理速度は256MHz。今のiPodよりもはるかに小さく遅い。東京ドームと町の公民館、三輪車とF1マシンあるいは紙ヒコーキとF-22などの第5世代ジェット戦闘機くらいの差だ。

各プロバイダのサーバも陳腐だった。遅く、重く、小さく、お粗末で、陳腐。それがインターネット黎明期だ。PCも回線もプロバイダも、ハードとソフトのすべてが今から見れば旧石器時代、それどころかビッグバン数秒後ほどのレベルしかなかった。宇多田ヒカルはそんな時代のただ中に出現した。

「宇多田ヒカルAUTOMATIC事件」は新しい時代の到来を告げる象徴的な出来事だった。あらゆることがネットワークの中で発生し、成長し、増殖する世界。すべてのことが、当たり前のようにAUTOMATICに進行する世界が数年後に迫っていると感じた。そういった種類の感想、衝撃は宇多田ヒカル以来のことだ。宇多田ヒカルのときもそうだったが、今後、2CELLOSは途轍もない事態になる予感がある。すでにして大ブレイクは世界中ではじまっているが。


Smooth_Criminal-2CELLOS800PX2.jpg Smooth_Criminal-2CELLOS800PX1.jpg


取り澄ました古典楽曲の演奏家をはじめとする守旧派はさぞや肝を冷やしていることだろう。CDを中心とする音楽ソフトが売れないのは肝心の音源がつまらないからだ。

これからの「本物の表現/表現者」は欲得に雁字搦めにされた愚にもつかぬ戦略や小賢しいマーケティングによる「作られたスター/アイドル」によるのではなく、自由放埒な世界、すなわちインターネットからしか誕生しえない。

「路上」「ストリート」すらも、いまや手垢にまみれ、ひと儲けを企むポンコツどもによって汚れてしまった以上、残された「未開の地」「約束の地」はインターネットしかあるまい。いつかインターネットもまたおなじように手垢にまみれ、セルアウトに取り憑かれた亡者どもに蹂躙簒奪される「草刈り場」に堕するとしてもだ。そのことの意味をよくよく考えるがいい。


Book_of_Love800PX20130803.jpg 2CELLOS-COLLAGE800PX.jpg


2CELLOSを「異端審問」にかけようと虎視眈々と狙いを定める陰湿陰険な邪鬼悪鬼どもが世界中で蠢いているのだろうが、もはや流れをとめることはできない。臆病姑息強欲狡猾な野良猫/泥棒猫どもは縁の下にでも隠れていろということだ。

音楽に限らず、あらゆる表現において重要なのは速度感だ。すべての表現は疾走していなければならない。疾走するとは、過去と現在を、さらには未来すらも置き去りにするということだ。

2CELLOSの速度感、疾走感はすさまじい。「チェロよ、粉砕されろ! 木っ端微塵になれ!」とでも言わんばかりの激しさで。共演した名うてのオーケストラの楽団員達が一様に驚愕の表情で2CELLOSを見つめるシーンでは思わず鳥肌が立った。

『シンドラーのリストのテーマ』ではルカ・スーリッチがソロで素晴らしい演奏を聴かせる。イツァーク・パールマンの名演に匹敵、あるいは超えているとさえ思える。このとき、ルカ・スーリッチは泣きながら演奏している。共演の楽団員たちも。彼の出自はユダヤの民かもしれない。あるいはユダヤの民の血の慟哭と母国が経験した悲劇とが重なったか。いずれにしても、近来のチェロ演奏における出色、白眉、筆頭と聴いた。

ロストロポーヴィチがルカ・スーリッチのこの演奏を聴いたら、さらには2CELLOSと共演したら、それにイツァーク・パールマンも加わったらとふと思い、すぐに、「時間」「縁」の不可思議さと残酷さに感慨もひとしおだった。

2CELLOSに注目するのはその演奏の技量、すさまじい速度感、疾走感もさることながら、次の2点に集約しうる。ひとつはYouTubeというインターネットの一大鉱脈から出現したということ。もうひとつは、東ヨーロッパ/旧ユーゴスラビア出身であるということだ。

長いあいだロシア/ソ連の軛、十字架の元に生きてきた人々の不全感、不遇、貧困、不安定、絶望、憎悪、憤怒、悲しみ。強国の巧妙狡猾したたかな戦略がもたらした自国民同士の反目と分断。民族対立が生んだ目を覆うばかりの血の慟哭。

表現することを成り立たせている真言は、ファックでファットなジャンクフードまみれの生ぬるく緩んだ世界からは誕生せず、ルサンチマン/恨みと怨みの場からしか生み出しえない。それを2CELLOSは持っている。


2CELLOSに瞠目刮目せよ! その出現を喜べ!


Luka_Sulic-2CELLOS800PX.jpg 2CELLOS800PX54.jpg


2CELLOS - Mix Playing List
Luka Sulic - Theme from Schindler's List




     
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