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湘南の散歩者の夢想#2 わが夏、ぼくを呼ぶ声

 

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 一瞬の夏、テロルの決算。そして、永遠の夏のこどもたち。


 夜明け前、降りそそぐ星々のさんざめきのような蜩の呼び声に目覚めた。夏の盛りだというのに。いつもならすぐにスキーター・デイヴィスの『The End of The World』をリピートでかけて、世界の始まり/世界の終りを夢想しつつ1日の始まりにふさわしいだけの溜息をつき、嘆息をつき、「やれやれ」と思い、意識の覚醒を待つのだが、きょうにかぎってはちがった。蜩の呼び声にしばらく耳を傾けた。それは世界の終りを告げているようにも感じられた。
 PCを起動し、メールをチェックする。天神祭ガールのマーチャノワからメールが届いていた。メールは「強い南風が吹きつける七里ケ浜駐車場レフトサイドで夏の始まりのための祝杯をあげませんか?」という実に魅力的なオファーで始まっていた。いまは天神祭の地で慎ましやかな暮らしを営んでいるマーチャノワだが、元々は茅ヶ崎生まれの茅ヶ崎育ち。正真正銘の湘南ガールである。「大船は鎌倉市だけど湘南じゃない」というのがマーチャノワの口ぐせだ。そのあとで、決まってマーチャノワはつづける。

「本物の湘南ピープルは自分が湘南に住んでいるなんて決して口にしない。だって、湘南に生まれて湘南で生きて湘南で死んでゆくんだから。それがあたりまえのことなんだから。それでいいんだから。取り立てて言うほどのことじゃない。訊かれてもいないのに茅ヶ崎に住んでるだの地元は鎌倉だの言うやつは救いようのないバカで田舎者よ。湘南、特に鎌倉くらい排他的な街はない。京都以上よ。わたしは鎌倉は大っきらいだけどね。鎌倉って聞いただけで虫酸が走っちゃう」

 夏の盛りを迎え、湘南の血が騒いだのでもあるか? 早速、返信した。
「委細承知。吾輩は葉山、逗子の海沿いを経由して、材木座海岸、由比ヶ浜、稲村ヶ崎の波打ち際を歩いてゆく。強い南風が吹きつける七里ケ浜駐車場レフトサイドに立っていたまえ。そして、まばたきひとつせずに海を凝視していろ。吾輩は七里ガ浜の幅40メートルほどのサーフポイントから浜辺に上がる。頭にはクビレヅタ、海ブドウをドレッドヘアのようにかぶっているはずだ。その異形を見ていろ。海ブドウをかぶって海から巨神兵の凱旋のごとくに七里ガ浜の浜にあがる吾輩を。それがわれわれの湘南の夏の始まりを告げる開幕ベルがわりだ。七里ガ浜駐車場前のセブン-イレブンでビールとクラッシュアイスを調達して、よく冷やしておくこと。ときどきは江ノ島の島影と勝手者のシンドバッドの胸騒ぎの腰つきに一瞥をくれてやれ。くれぐれも、きみの得意技である2000トンの雨のための雨乞いはしてはならない。2000トンの雨のための雨乞いをするのはこの夏が終わるころ、湘南の夏に別れを告げるときだ」


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 灼けつくすような湘南の陽の光を全身に浴びながらひたすら波打ち際に歩みを進める。材木座海岸、由比ケ浜で引潮の時間帯にあたり、渚が30メートルほども後退していた。由比ヶ浜の西の外れに人影はほとんどない。夏の盛りであっても、それが由比ヶ浜のひとつのまぎれもなき姿である。
 一旦、134号線の海沿いにルートをとる。心地よい弧を描き、適度なアップダウンを繰り返しながら、よく整備された遊歩道をゆく。途中、数々の風雨によってやつれたベンチに座り、相模湾を一望する。背後を行き交う車の走行音と潮騒だけがある。さらに歩みを進める。ゆるやかな勾配の果てに稲村ヶ崎の岩肌が迫りくる。
 稲村ヶ崎の古戦場でいにしえの古つわものどもに一瞥をくれてやるが、古つわものどもは黙して語らない。今は昔の「七里ガ浜駐車場合戦」を忘れたか。稲村ヶ崎の岩礁のごつごつとした感触を足裏に感じながら岬をひと巡りし、再び波打ち際を歩く。江ノ島の島影が湘南の夏の高熱の中で揺れている。小動岬は夏の陽盛りを浴びて蒸発寸前だ。珊瑚礁海店の屋根の一部が見えはじめる。強い南風が吹きつける七里ケ浜駐車場レフトサイドも揺れている。波打ち際を越境し、入水する。泳ぐ。ひたすら泳ぐ。途中、予想どおりに海ブドウのひと房が頭部にのる。いい兆候だ。いままでも、こうして湘南の夏の始まりを迎えてきた。これからも、生きているかぎりずっとだ。
 ビートのピッチをやや落とす。その分、パドリングのぺースを上げる。海水は浮力がある分、水をつかみにくいから、このやり方が正しい。真水のプールでしか泳いだことのない野生と野蛮を失ったひ弱な都市生活者には解きえないドリルだ。
 息つぎのときに強い南風が吹きつける七里ケ浜駐車場レフトサイドに目をやる。マーチャノワがちぎれるほどに手を振っている。白い腕を。ターコイズ・ブルーのリボンのついた帽子を。
 浜辺に向かう。水中から巨神兵は凱旋する。波打ち際を再度、越境する。真夏の越境者。いい物語の開き方だ。マーチャノワからよく冷えたビールを受け取り、プルリングを一気に引き上げる。世界の果てで弾ける運命の泡のような音。かくして、僕らの2013年、湘南の夏は始まる。

*珊瑚礁のアロハ髭デブおやじよ。おれはあんたがくたばった齢をとうにすぎ、いまや偏屈乱暴狼藉爺さんまっしぐらだ。2000年にあんたが死んで以来、おれは七里ガ浜にも稲村ヶ崎にも背を向けてきたが、13年を経て、おれは帰ってきた。あんたの七里ガ浜に。あんたといっしょに稲村ジェーンに乗った稲村ヶ崎に。笑ってくれ。そして、少しだけ微笑んでくれ。そして、例のくしゃくしゃの笑顔を一瞬でもいいから見せてくれ。そして、あの頃とおなじドスのきいた嗄れ声を聴かせてくれ。そして、ベランメエ調で説教し、あの頃のように「馬鹿野郎!」と怒鳴ってくれ。
 あんたが手塩にかけた珊瑚礁は海店も山店も安泰だ。若衆たちはどいつもこいつも礼儀正しく、元気溌剌オロナミンC百年分だから安心しな。ただし、1日3食限定の「海老みそカレー」がメニューから消えたのはどうしても納得いかねえぞ。なんとかしてくれよ。おれ様はと言えば、大好物の「ビーフサラダ」が、いまではひと皿平らげるのもやっとこさっとこという体たらくさ。あの頃は3つも4つも喰えたのにな。寄る年波ってこったな。笑ってくれ。
 お頼みひとつだ。おれが海に入るときはいい波を立たせてくれ。波乗りの神サマに取り合ってさ。豊葦原瑞穂国、東海の小島の磯に初めてロングボードを持ち込んだあんたがそれくらいしたって、バチは当たるまい。ただし!「バッチグー!」なんぞと抜かしやがったら、ピュアブラック&ホワイトのライトニング・ボルト仕込みの稲妻アッパーでブットバース!



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    [C146] 聴かずに死ねるか

    エントリーとは全然関係ないが、ゆらゆら帝国「空洞です」を聴くべし。日本語ロックの到達点がここにある。
    そして、これまた関係ないが、オレは家賃滞納で部屋を追い出されることになりそうじゃ。はは。
    • 2013-07-27 18:01
    • ガジン
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