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オ・ヤツハ・カール=ハインツ・シュトックハウゼン卿の4機のヘリコプターをめぐる冒険と野望#1

 

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 当面の問題は家に帰り着くことだ。その余の問題は、この際、すべてどうでもいい。しかし、ただ帰還するだけでは問題解決の糸口にさえならない。4機のヘリコプターとともに、戦略墜落型ボーイング・バートルV-22オスプレイ4機とともに帰らなければ。明け方に。暁の輝く朝に。シェールが輝く月に見とれすぎて惰眠を貪っている静寂が支配する朝に。
 私は戦略的戦術的に最終の大江戸線の先頭車輌にいた。あたかも夜明けのエニグマ・スメグマ・スペルマ・シュティグムのような風情を漂わせて。私はいくぶんかは風変わりな風体だったかもしれないとは思う。なにしろ、私が車輌に乗り込んでほどなく、近くの乗客のうちの数人が顔を見合わせてこっそり笑いはじめたからだ。笑いを噛み殺してうつむいていたDK-NYのTシャーツをこれ見よがしに来た女などは、私が放屁した途端にここぞとばかりに笑い転げだした。まったくもって、DK-NYを来た女には注意しなければならない。経験的にろくなことはない。DK-NYのTシャーツを着た女と関わると。
 異変に気づいた運転手がちらちらとこちらを見はじめた。次第に地下鉄の車内に他人の小さな不運に遭遇できた喜びのたぐいの笑いが広まっていき、ついに乗り合わせた人々全員が腹を抱えて笑いはじめた。私は恥ずかしくて右の頬と左の耳たぶと右膝と左肘が燃えたばかりか、ビッグフェイス・ガジン・フロム・アプリコットアイランドからもらったP!NKの『The Truth About Love』のCDを食べてしまったほどだ。
 私が物心ついたときから後生大事に抱えつづけてきたアウフヘーベン・アウスレーゼ・クライスレイアーナの小塊がポケットの中でもぞもぞと蠢きはじめたのは麻布十番駅の腑抜けたホームが見え始めたときだった。私はたまらず下車した。残った乗客たちはいかにも名残り惜しそうに私を見送っていた。


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 芋洗い坂を目指して急ぎ足で十番商店街を抜けた。あべちゃんにも浪速屋総本店にも十番温泉跡地にも豆源にも幻の魚屋にも目もくれずにだ。すれちがう者たちがみんな、あきれ顔で振り向き、声を上げて笑った。私はよっぽど、「おまえら! なに見てんだよ! 4機のヘリコプターを背負ってるのがそんなに珍しいか? 面白いか?」と言ってやろうかと思ったがやめた。彼らが笑うのはもっともだ。グレイ・フランネルの高級スーツを着た男が4機のヘリコプターを担いで ── しかも、悪名高き戦略墜落型ボーイング・バートルV-22オスプレイ4機! ── 夜ふけの麻布十番商店街を血相を変えて急ぎ足で歩く人物にはそうそうお目にかかれるものではない。
 今から思えば、私は完全に「酷寒のミル・プラトー」に立っていたのだと思う。ビッグフェイス・ガジン・フロム・アプリコットアイランドの助けが必要だったが、ビッグフェイス・ガジン・フロム・アプリコットアイランドは西伊豆戸田村の御浜岬の鈎状砂嘴をフィールドワーク中だ。どうにもならない。仕方なく、けやき坂麓のTSUTAYAに寄ってジョン・ケージの『4分33秒』とカールハインツ・シュトックハウゼンの『4機のヘリコプターと弦楽のための四重奏曲』を試聴した。私が試聴しているあいだも戦略墜落型ボーイング・バートルV-22オスプレイ4機は低い唸り声のようなローターの回転音をあげつづけていた。長く男日照り、下砂漠のつづく40女の嘆きの声のようにも聴こえた。
 あらゆることが私の意志に反して動いていた。戦略墜落型ボーイング・バートルV-22オスプレイ4機はその象徴にすぎないことを知るのはオ・ヤツハ・カール=ハインツ・シュトックハウゼン卿の登場まで待たなければならない。オ・ヤツハ・カール=ハインツ・シュトックハウゼン卿の冒険と野望についての物語を聴くまでは。


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