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日曜の夕暮れ前のスターバックスのテラス席と『言語にとって美とはなにか』と金持ちの団塊男#2

 

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 M.プルーストの『失われた時を求めて』を地図に男は本当の自分を探していた。 E-M-M


「なぜそれほど深刻に『言語にとって美とはなにか』を読まれていらっしゃるんですか?」
 無礼を覚悟でたずねた。彼が激怒し、テーブルをひっくり返し、殴りかかってくるのではないかと気が気でなかった。いつ/どこで/なにを/どのように読むか/読まないかはきわめて個人的な問題だからだ。他者がとやかくのことを言う領域には属さない。『草枕』を渡良瀬川の清流における午睡のための枕がわりにするのも自由だし、iPad/iBookを愛を囁きあいながら食す湯豆腐の鍋敷きにするのも自由だ。そこにはことの善し悪し、正邪の問題はいっさいない。あるのは自らの内なる声と読まれる/読まれないテクストがいかに響き合うかという問題だけである。
 ウンベルト・エーコ教授の『薔薇の名前』において修行僧たちが向かい合っていたのは「書物」「テクスト」だろうか? 私はそのようには了解しない。彼らが向かい合っていたのは教会という名の権威、さらに言うならば「中世」という暗黒、闇であるというのが私の考えだ。ことほど左様に、書物/テクストのたぐいは時代/世界の権力権威と不可分のものであるととらえることもできる。このちっぽけでばかでかくて広い世界には読むことを拒否するテクストすら存在することを踏まえながら私はテクストと向きあってきた。にもかかわらず、今自分がしていることはそれらとはあきらかに矛盾する。しかし、男の切迫感、深刻さが私の中の「掟」「流儀」を破らせた。男の答えは意外なものだった。
「『失われた時を求めて』を地図にするためのプロセスだからですよ。深刻にならざるをえない」
 男は言い、サビルロウのSR-エグゼクティブの奥にある青みがかった瞳をぎらりと輝かせた。「あなたならその意味を理解できるはずだ。虹のコヨーテさん。いえ。エンゾさん」
 血の気が引き、全身が総毛立った。
「わたくしとしてはビッグ・フェイス・ガジン・フロム・アプリコットアイランドさんも一緒だと都合がいいんですがね」
 男のテーブルに二羽の雀がやってきて男の血色のいい顔を見上げている。男の表情は『言語にとって美とはなにか』に目を落としていたときとは打って変わって、とても穏やかで慈しみにあふれていた。私はその光景を目にしながら徐々に冷静さを取りもどしていた。そして、思った。
「物語の開き方としては悪くない」
 同時に、ガジンからの着信を知らせる P!nk の『TRY』のメロディーが鳴った。




     
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