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christian louboutin men outlet アノニマス・ガーデン/記憶のほとりの庭で |『レジメンタル・タイの思い出』と『レジメンタル・タイの思い出』の思い出

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『レジメンタル・タイの思い出』と『レジメンタル・タイの思い出』の思い出


regimental00.jpg

 初めてレジメンタル・タイを買ったのは18歳、高校の卒業式の前日だった。元町のPOPPYまで出かけていき、ショウ・ケースにずらりとならんだタイの中から僕が選んだのはシャンペン・ゴールドの地にグリーンの細いストライプが入ったやつだ。よく糊のきいた白いBDシャツにそのレジメンタル・タイを締め、兄貴からのお下がりのブルックス・ブラザースのかなりくたびれたブレザー・コートを着てフェアウェル・パーティーに出かけた。アスファルトを踏みしめるたび、磨き上げたローファーが小気味いい音を立てた。

poppy01.jpg

 その日、僕はある決意を胸に秘めていた。高校一年の夏からずっと思いを寄せていた同級生の女の子になんとしても胸の内を伝えるのだと。そうすることが自分の高校生活に対するひとつの決着のように思えたからだ。
 思えば誇りうるものとてない3年間であった。僕がフィリップ・マーロウなみのタフガイかジーン・ケリーばりのタップの名手だったならば僕の高校生活も少しは気の利いたものになっていたかもしれない。彼女のやわらかな唇に触れることだってできたはずだ。だが、僕は相手の鼻っ柱を一発でへし折るほどのストレート・パンチを持ち合わせていなかったし、女の子をうっとりさせるだけのタップを踏むセンスにもめぐまれていなかった。遠くから彼女を見つめつづけることしかできないまま凡庸きわまりない3年間が過ぎていった。自分の不甲斐なさにひどく腹を立てながら。

stardust00.jpg

 パーティーは港のすぐ近くにある「STAR DUST」というバーを借り切って行なわれた。店の中はこれから始まる新しい生活への期待や不安に胸をふくらませる18歳の若者たちで華やかに賑わっていた。進学する者、もう一年受験勉強に取り組む者、就職が決まった者。どの顔にも何事かを成し遂げた者のみが持ちうる充足感のようなものが漂っていた。自分だけが場ちがいな所へきてしまったような気がした。女の子たちはみちがえるほどきれいだった。とりわけ輝いていたのは僕が思いを寄せていた女の子だ。彼女の長い髪が揺れるたび、僕の胸は甘く痛んだ。彼女に近づくことすらできないまま時間だけが刻々と過ぎていった。
 8時55分。タイムアップまで残り5分になったときだ。誰かが僕の背中を押した。誰が僕の背中を押したのか、それはいまだにわからない。友だちのひとりがうわの空の僕に気合いを入れたのかも知れないし、ただぶつかっただけかもしれない。いずれにしても、そのひと押しがきっかけだった。僕は強引に女の子の腕をとり、ついに店の外へ連れ出したのだ。僕たちは黙ったまま港の明かりを反射して生き物のように光る夜の海をしばらく眺めた。

northpier01.jpg

「ずっと好きだったんだ……」
 僕はしぼり出すように言った。
「わかってる」
 それだけ言うと彼女は僕の手をそっと握った。耳の裏側が熱く火照り、胸が高鳴った。彼女の手はあたたかく、小さく、やわらかだった。僕はいつまでも彼女の手を握っていたかった。このまま時間が止まってしまえばいいとさえ思った。僕が再び口を開きかけると彼女は僕の唇を右の人差し指で押さえ、精いっぱい背伸びしてからマシュマロみたいにやわらかい唇を押しあてた。彼女の髪の甘い匂いに僕は危うく気を失いかけた。遠くで波の音が小さく聴こえた。
「素敵よ、とっても」と彼女は僕の耳元で囁き、タイの結び目を直してくれた。そして震える声で言った。劇の幕でも降ろすように。

buttondown01.jpg

「ごめんね。わたし、秋に結婚するの」
 言い終えると彼女は春の初めのやわらかな闇の中へゆっくりと消えていった。岸壁に打ち寄せる波の音がいつまでも耳の奥に残った。このようにして、僕の初恋は静かに終わりを告げた。そして、歳月の流れ  。 
 いくつかの恋があり、いくつかの別れを経験した。たくさんの友だちと出会い、すこしの友だちが残った。酒の味を覚え、酒の飲み方を学んだ。僕は街を遠く離れ、彼女と会うことももはやない。季節の移ろいとともに多くのものごとがかわり、失われてしまったが、あの日のレジメンタル・タイは今もワードローブの片隅でひっそりと息づいている。





hardrain01.jpg

 運転中、猛烈な夕立にあった。ワイパーはまったく用をなさなかった。帰宅後、高橋竹山のCDを聴いたり、サムルノリの太鼓にあわせて踊ったり、ギターを弾いたり、出すほうのメールを書いたり、出さないほうのメールを書いたり、村上春樹の『ノルウェイの森』をベランダから杉木立の中へぶん投げたり、スパゲティを茹でたり、米を研いだり、アルバート・アイラーとジョン・コルトレーンはどっちがスカかの原稿を書いたり、エリック・ドルフィーの『Out to Lunch』のジャケットを眺めたり、ソニー・クラークの『Cool Struttin'』のジャケットを真似てハイヒールを履いたり(うそ)、ダッコちゃんに抱きついたり(これも、うそ)、小唄のおさらいをしたり、パイナップル・ミントを生で食べたり、因数分解の問題を解いたり、「宇宙」について考えをめぐらしたり、別のほうの「宇宙」について腹を立てたり、ディラックの海の家でアルバイトをした夏のことを思い返したり、「團藤重光先生の死に水はだれがとったんだ?」と思いをめぐらしたり、我妻榮先生が相続法の講義の最中に財産分与に関わるちょっとした計算で15分も立ち往生してしまったことはだれが語りつぐのだろうと心配したり、「近代日本におけるダットサンの優越的地位」のコピーをとったり、『草枕』を暗誦したり、溜息をついたり、サキソフォンを吹いたり、ラッピングしたり、HDの断片化を修復したり、『エゼキエル書』を読んだり、『臨済録』を読んだり、『方丈記』を読んだり、『奥の細道』を読んだり、『汚れっちまった悲しみに』を声に出して読んだり、『ゲーデル、エッシャー、バッハ』を読みなおしたり、『共同幻想論』の昔の書き込みを読んで笑ったり、WOWOWったり、J-WAVEったり、iPodを同期させたり、AK-69の『One Way, One Mic, One Life』の般若のパートを真似したり、『死霊』を枕にうたた寝したり、「大化の改新、虫5匹」とかつぶやいたり、古いパテック・フィリップのゼンマイを巻いたり、ロード・レーサーのメンテナンスをしたり、缶ピースを吸ってみたり(ゲホッ)、マイルス・デイヴィスのことを考えて泣いたり、いたずら電話をかけたりした。つまりはヒマをもてあましていたということだ。
 そうこうしているうちに雨はどんどん強くなり、雨音は大きくなり、夜はふけていった。悪くない夜だった。そういえば、『レジメンタル・タイの思い出』の「僕」と出会った夜も、強い雨が降っていた。あれは私が大学をエクソダスしようかどうか迷っていた頃だ。神宮の森周辺をうろついているうちに雨になり、ある住宅街に迷い込んだ。そして、「ALONE AGAIN」というバーに入った。「ALONE AGAIN」は住宅街の真ん中にあった。まるで誰かに見つかるのを怖れてでもいるみたいにひっそりと。
 私がそのバーに入ったとき客は誰もいなかった。雨に濡れてからだがとても冷えていたのでサントリー・ホワイトでホット・ウィスキーを作ってもらった。コクのある笑顔のバーテンダーはホット・ウィスキーといっしょに真新しいバス・タオルを私の前に置いた。1時間ほどして会社員風の二人連れがやってきた。二人ともとてもファッション・センスがよかった。トラッド・テイストを残しつつ、仕立てのよいシックなスーツを着ていた。ネイビー・ブルーのペンシル・ストライプとグレイ・フランネル。二人のうち、グレイ・フランネルのスーツを着ているほうが『レジメンタル・タイの思い出』の「僕」だった。二人とも店の馴染みらしく、バーテンダーと二言三言冗談を言い合い、それから「僕」はバレンタインの12年をダブルのロックで、「僕」の相棒くんはグレンリベットをダブルのストレートでそれぞれ注文した。
 私はホット・ウィスキーを舐めるように飲みながら二人が身につけているものの品定めをしたり、ピスタチオの殻を剥いたり、カウンターの痕の数を数えたりしていた。私は知らん顔しつつも「僕」と「僕」の相棒くんの話に耳を傾けた。二人は会社での出来事や給料のことやクルマのことや音楽のことや女の子のことなどどこにでもあるごく普通の話をしていた。そのうち、話がファッションのことになり、話題がトラッド系におよんでからのことだ。
「初めてレジメンタル・タイを買ったのはいつ頃?」
「僕」の相棒くんが尋ねた。
「昔々の大昔、高校の卒業式の前の日だよ」
「僕」は相棒くんのほうを見ずに、うつむき加減で答えた。
「いまでも胸が疼く」
「僕」はぼつりとつぶやき、メイカーズ・マークをダブルのストレートで注文した。
「疼く?」
「うん」
「フラれたんだね」
「そのとおり。察しがいいな」
「それだけが取り柄だったりして」
「ふん」
「やめようか? この話題」
「いいよ。おまえには話してもいいような気がする」
「光栄ですな」
「高校一年の夏、おれは同級生の女の子に恋をしたんだ」
「僕」はグラスのメイカーズ・マークをひと息で飲み干してから言った。相棒くんは黙ってうなずいた。そして、「僕」のせつない恋の物語が始まった。

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「いまでもそのレジメンタル・タイはあの夜のままとってある。一度も使わないままね」
「僕」は話し終えると遠くを見るような目をしてため息をひとつついた。バーテンダーは「僕」の話が終わるのとほぼ同時にLPレコードに針を落とした。ギルバート・オサリバンの歌う『アローン・アゲイン』が小さな音で店の中に流れた。いいシーンだった。その後、「ALONE AGAIN」へは疲れたときなどひとりで行った。「ALONE AGAIN」では「僕」ともたまに会った。お互いに会釈を交わすだけだったがなんとなくいい感じだった。
 いつからか、「僕」はひとりで来ることが多くなった。身なりにはさらに磨きがかかっていた。一度だけ、とても可愛らしい女の子と一緒だった。そのとき、「僕」は私と目が合い、少しだけ顔を赤らめた。「僕」の相棒くんは一度見かけただけだ。「僕」にも「僕」の相棒くんにもきっといろいろなことがあったんだろう。いいこともわるいことも含めて。もちろん、この私自身にも。だが、それはとても素敵なことだ。そうやって、みんな成熟してゆくのだから。さて、来週あたり、「ALONE AGAIN」に行くことにしよう。また別の「僕」の話を盗み聞きしに。

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