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虹のコヨーテ#5 死ぬ方法と死に場所と至高体験

 

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 ビッグフェイス・ガジンことルイスウェイン・キャットは死の淵で経験した至高体験酷寒のミル・プラトーからの帰還に至る彼自身の物語を静かに語りはじめた。

 深く湿った森をいくつも抜けながら、おれは「死ぬ方法」についてずっと考えつづけた。おれをここまで追いつめた者の貌が浮かんでは消えた。その声もはっきりと聴こえた。背後にはその者の気配がつねにあり、足音はすぐそばにまで迫っていた。
「はやくしろ。はやくするんだ。時間がない。おまえに残された時間はわずかだ」
 野太い声だった。何人もの罪人に死を宣告し、執行し、葬ってきた者の声は魂の奥深くにまで届き、おれの魂をずたずたに切り裂く。

 餓死。それがおれが選択した「死ぬ方法」だった。薬物の服用でもなく、首を吊るのでもなく、飛び降りるのでもなく、手首を切るのでもなく、「自由意思による餓死」だ。それはある意味では自然死にもっとも近い。
「死ぬ方法」は決まった。あとは「死に場所」だ。最後は眺めのいい場所で死にたい。美しい景色を眺めながら徐々に訪れる緩慢な死。それは罪深くも臆病だったおれを裁くのにもっともふさわしい。
 原生林の森を視界のすべてに眺めることのできる場所でおれは足を止めた。素晴らしい眺めだった。
「ここにしよう。ここがおれの死に場所にふさわしい」
 悔やまれるのは雲が原生林の森を押しつぶすように垂れ込めていることだった。しかし、これ以上を望むのは贅沢というものだ。おれは靴を脱ぎ、靴下を脱いだ。さらに、着ているものをすべて脱ぎ、丁寧に畳んだ。そしてすべてをひとつに積み重ね、最後に一番上に靴を置いた。
「これでいい。これで心置きなく死を迎えることができる。重要なのは整理され、認識され、メタファーを一切含まぬことだ。あとは座し、眼を瞑り、黙し、思考し、静かに死を迎えるだけだ」
 その者の声も気配も足音も消えていた。おれは見納めにと雲の垂れ込める原生林の森に眼をやった。すると、にわかに巨大な雲の塊が二手にわかれはじめた。初めの数秒はゆっくりと動いていたふたつの雲の塊は、巨大で揺るぎのない意志の力による仕業としか思えぬような精緻明晰にして迅速な動きに変わった。左右にわかれた雲の塊は疾走するようにおれの視界から消え去っていった。そして、目映いばかりにあざやかなブナの原生林が全容を現した。深く息づいているようにもみえた。天空から巨大な光の束が原生林の森に降りそそいだ。
 輝ける緑。眼も眩むような光景だった。おれは光に包まれた。あたたかく確かななにものかがおれの身体の中を突き抜け、駆けめぐり、跳躍し、跳梁した。全身がふるえ、戦慄いた。そして、おれは気を失った。




     
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