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背中#2 戦いすんで、火がついて。

 

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 心の中はいつだって土砂降りだ。 E-M-M


 今しがたガジンが帰還した。14年ぶりに見送るガジンの背中は心なしか疲れてみえた。14年のあいだにガジンが経験したことどもの輪郭がおぼろげにみえ隠れした。とりわけて、白神山中でガジンが経験した「至高体験」とも言いうる二手に別れた雲間に現れた輝ける闇を孕んだ原生林と酷寒のミル・プラトーは、ガジンの思考の枠組みを劇的に変えもしたろう。麓の温泉町の浴室で意識を取りもどすまでの「空白の4日間」が意味するものの解読には長い時間を要するだろう。その解読の旅は重い軛、十字架を背負ってつづくことになるだろう。そうであってもなお、「希望」はその力を失うことはないだろう。洪水とパンドラの箱の破壊ののちの「千年の物語」の一端をガジンは担うようになるだろう。たとえ、大江健三郎が去り、辺見庸が身罷ったとしてもガジンは語りつづけ、語り継がねばならない。吾輩が一人抱えつづけてきた「火」「炎」「焰」の主要部分はガジンに継いだ。

 ガジンよ。おまえを見送り、しばしその背中を見つめ、後ろ姿が時雨れてゆくまで見つめつづけ、ちょっとだけしょんぼりし、声をかけようかと思ったが我慢し、心の中で「元気で。ずっと元気で。」とつぶやき、それからわが本拠地に帰還し、本棚の森成燕蔵の著作の前にそっと置かれたMumford & Sonsの『Babel』とP!nkの『The Truth About Love』をみつけた。聴いたが、おまえと一緒に聴いたときの音は出ず、たばこは苦く、煙りは目にしみた。目から少しだけしょっぱいものが出た。だがそれはたばこの煙りのせいだ。たぶん。
 ガジンが帰還し、いま、もの静かに土砂降りの雨にうたれながら、エディット・ピアフの歌う『La vie en Rose/バラ色の人生』を聴いている。
「編集焼飯ばばあめが。」と吾輩は独りごちる。ついでに「ふん。」と鼻を鳴らしてもみる。
 人生がバラ色だなどとは誰にも歌わせまい。言わせまい。「La vie en Rose」を歌い、「バラ色の人生♪」と言えるのは吾輩だけだ。
「ラ・ヴィ・アン・ローズ」とそっと口に出してみる。「バラ色の人生♪」とも言ってみる。ほんの少しだけ人生が色づいたような気がした。未来とやらに冷徹につづく道が薄紅に匂うかとも思われた。だが、それも長くはつづかず、吾輩の目の前にはいつもどおりの横須賀の鈍色の空が広がっているだけだった。空はみるみる黒くなり、どしゃ降りの雨。激しい雨。吾輩はずぶ濡れになりながら、「La vie en Rose、バラ色の人生。」と呟きつづけていた。


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