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顔のない音楽家/ジャン・ミシェル・ミゴー

 
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 音楽家。文筆家。ストリート・パフォーマー。1938年、パリのバスチーユ地区に生まれる。父はユダヤ系フランス人、母はアルジェリア系フランス人。ジュリアード音楽院でピアノと音楽史を学ぶ。その後、NYのサウス・ブロンクスでアフリカ系アメリカ人の友人らとコミューンを形成し、ストリート・カルチャーに親しむ。住所、居所、生死、いずれも不明。フランス帰国後はコレージュ・ド・フランスの哲学科に編入。ブランショ、フコ、デリダ、ドゥルーズらの影響のもと、「哲学と音楽の批判的融合」をテーマとした論文で学長賞を受賞。ピアノのほか、パイプ・オルガン、アルト・サクソフォン、ギター、ベース、ドラムス、ヴァイオリンの演奏もこなす。主著に『Le Ruisseau de Bach』『HIP-HOP EXISTENCE』『L'ESPACE MUSIQUE』『La MUSIQUE INFINI』『Converso, Marranisme, Morisques, Musique, Reconquista』等がある。
 一貫して、「現在性」「匿名性」「偶然性」「縁」「反権力」「反権威」「漂泊」をみずからの創作活動、表現活動の主軸としており、ごくかぎられた人びとをのぞいて、ジャン・ミシェル・ミゴーの素顔を知る者はいない。また、「音楽は本来持っていた現在性、一回性をかなぐり捨てて、楽譜、記録媒体に依存することによって退廃腐敗した。その大罪の主犯は J.S. バッハである」として、演奏を記録することをかたくなに拒みつづけている。ジャン・ミシェル・ミゴーの即興によるパフォーマンスは彼の作品そのものであり、それ以外には、著作をのぞけば「作品」と呼びうるものはなにひとつ存在しない。
 ジャン・ミシェル・ミゴーの部屋の壁には、かの鈴木大拙揮毫による「一期一会」の書がかけられているといわれる。また、若き日、参禅を主たる目的として来日したおり、鈴木大拙本人から「未豪」なる号を授けられた。「禅」はミゴーを読み解くキーワードである。ミゴーはこの号がたいそう気にいったようで、サインを求められると必ず「未豪」と記す時期があった。
 1990年代末、K. ジャレットとの「インプロヴィゼーション・デュオ」が企画されたが、契約問題、特に「録音」を主張する K. ジャレット側との調整が難航し、企画は立ち消えとなった。記録された音源が公式にはいっさい残っていないため、一部の音楽愛好家のあいだで「リスト以上」とも賞賛されるピアノ演奏の超絶技巧や、エミネム、2PAC、ICE-CUBE、ICE-Tらが涙したといわれるライムを聴くことは不可能な状況である。2000年9月、イーベイ・オークションに、「ジャン・ミシェル・ミゴーのサウス・ブロンクス時代のストリート・ライヴ」と称される音源が出品され、高値を更新しつづけたが、突如として当該オークションは取り消された。オークションの存在を知ったジャン・ミシェル・ミゴー本人からイーベイに対する強い抗議があったためと推測されている。なお、URLは不明であるが、インターネット上で連日、ジャン・ミシェル・ミゴーがアノニマス・ライブ実況をしているといわれ、好事家のあいだではそのサイトを見つけだそうというコミュニティが数多く生まれている。筆者はパリのサンジェルマン・デ・プレ教会で行われたライヴを一度だけ聴いたことがある(ライヴは事前の告知などはいっさいなく、偶然サンジェルマン・デ・プレ教会を訪れたのであった)。そのとき、ジャン・ミシェル・ミゴーは黒マスクをかぶり、全身黒ずくめのジャンプ・スーツでパイプ・オルガンによるオリジナル楽曲、『Jardin Anonyme à Paris / Peur de la Liberté』を演奏したが、テクニーク、表現力、独創性のいずれもがリヒターを軽々と凌駕するものであった。

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