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私のガングリオン、彼女のアテローマ、彼のメラノーマ#1

 
 
Ganglion_Cyst1000PX1.jpg


Cyst Cityの夜は歪で跛行的である。だれの心にも容易に狂気が忍びこむ。E-M-M


丹古母鬼馬二が極秘で出演していたウジェーヌ・イヨネスコの『瘤』へのオマージュのアングラ劇をみた夜、右の人差し指の腹に鋭い痛みを伴うガングリオンが隆起した。ガングリオンはみているうちにどんどん大きくなっていった。

偶然つけたJ-WAVEからこぶ平の虫酸が走りまくる声が聴こえてきたのはなにかの冗談、お愛嬌にしても、チャンネルをかえた先のNHK FMから聴こえてきた曲がエドワード・エルガーの『鼓舞鼓吹』というのは宇宙を支配する巨大な意志の力も少々やりすぎだろう。最近、宇宙を支配する巨大な意志の力のやつは妙にややこしい問題を出題してくる傾向がある。

そう思ったと同時にiPhone 2000-GTRのシルバーメタリックの筐体がヨシムラ手曲げ直管のようにふるえた。黒いシックなスーツを着たJ.P. サルトルの待ち受け画面はポップ・ヨシムラがエグゾーストを力任せに曲げている画像にかわった。ガールフレンドのヨシムラ・ユミコだ。

「たいへんなのよ! いまから行っていい?」
「どうしたんだよ? 実は僕もたいへんなんだ。タンコブなんだ」
「え? なに? 炭坑夫?」
「炭坑夫じゃないよ! 石炭じゃなくてタ・ン・コ・ブ」
「タンコブですって!? あたしのたいへんもおなじようなものよ!」
「きみのたいへんはどんななんだい?」
「ノーよ!」
「え?!」
「だーかーらー! ノーよ!」
「僕たちの関係性を解消するってこと?」
「ちがう! ちがう! ちーがーいーまーすー! ノーができちゃったのよ! 右の耳たぶに!」
「きみの言っていることはまったく訳がわからない。僕もいろんな不思議世界に首をつっこんできたけど、NOが耳たぶにできるなんて話は聴いたことがないよ。まったく、" OH! NO! "もいいところだ。いまこそ、ダラスの熱い日のジャクリーンの気持ちがわかるよ。それとも、それは否定という世界の新しいタームの象徴として言ってるわけ?」
「ふざけないでちゃんと聴いて! 右の耳たぶにできたノーは500円玉くらいの大きさでファイストス円盤とまったくおなじ模様があるのよ!」
「ますます訳がわからない。それじゃあ訊くけどさ。ノーが500円玉くらいの大きさでファイストス円盤とまったくおなじ模様なら、イエスはビッグカンダタマヌ玉くらいの大きさで模様はロンゴロンゴ・アダムスキー型円盤でFAなのかい?」
「あなたこそなにを訳のわからないこと言ってるのよ! わたしのノーは嚢胞のノーよ! 矢追といっしょにしないでちょうだい!」
「のうほう? まさかきみ、厄介で胡乱で七面倒くさい有機ウーマンになっちゃったわけ? 自然農法がどうとか有機栽培がどうとか親のお通夜や告別式や火葬場でも大声を出すような」
「そののうほうじゃないわよ! 耳たぶに丸っこい袋みたいなのができちゃったのよ!」


Atheroma1000PX.jpg


「ああ。嚢胞か。なるほど。で、それはいつからできたんだい? 500円玉くらいの大きさでファイストス円盤とまったくおなじ模様の自然農法は」
「あなた、まだわたしをからかってるわね?」
「まさか! からかってなんかいないよ。たのしんではいるけどね」
「とにかく、いまからそっちへ行くからなんとかしてよ」

ヨシムラ・ユミコはそれだけ言うと電話を切った。ポップ・ヨシムラのエグゾースト・ノートが消音し、「ENGAGEMENT」のアナウンスとともにJ.P. サルトルが眉毛ぼーぼーのボーヴォワールの尻に麻縄を食い込ませている待ち受け画面に変わった。眉毛ぼーぼーのボーヴォワールはスピーチバルーンで「キシキシピャッピャッ」と言っていた。友人のベップ・ガジンが加工してプレゼントしてくれたものだ。

そのベップ・ガジンが深刻なメラノーマ問題をかかえてヨシムラ・ユミコと前後してやってくるとは予想もしない夜だった。窓辺に座っている白いパンダが「アジアの純情」を漂わせながらパラダイムシフト・パフィ・パフェを貪り食っているのが視界の隅に視えた。


Malignant_Melanoma1000PX.jpg Malignant_Melanoma1000PX1.jpg





     
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