FC2ブログ

Entries

ジュークの春#4 「黙秘します。」

 

Silence_of_The_Lambs1000PX0.jpg
 
 吾輩は結局、「公務執行妨害」と「銃刀法違反」で緊急逮捕された。銃刀法違反? そうだ。当時の唯一無二の論友であったガジンと「刺しっこ遊び」をするために刃渡り42cmのダガーナイフを持っていたのだ。もちろん、刃渡りが42cmある刃物を所持して街中を歩いていれば当然に銃刀法に抵触する。しかし、逮捕前に、デコスケは裁判官の発した「捜索差押令状(いわゆる「ガサ状」)」のたぐいなしに勝手に吾輩のバッグをあけ、中身をひっかきまわしたのであるから、明らかな「違法」を犯したことになる。違法行為によってえた「証拠」に証拠能力はない。そもそも、違法行為によってえたものは「証拠」ですらない。違法行為によってえたブツを唯一の拠り所とすれば公判維持さえ危うくなる。「違法収集証拠」「毒樹の果実」だからだ。先の厚生労働省を舞台とした贈収賄事案における前田謀なる現職検事らによる「証拠物の偽造改変」は論外である。毒の樹になった実はたとえ無毒無害で美味であったとしても証拠として採用することはできない。刑事訴訟法その他の法令条令等に基づく適正な手続きにしたがってすべての捜査は行われ、証拠は収集されなければならないというのが近代刑事司法の原則なのだ。このことは最高法規たる日本国憲法にもはっきりと規定されている。「令状主義」だ。令状主義の大眼目は捜査機関が捜査の名の下に諸権限を悪用濫用し、不当に人権を侵害することを予防するところにこそある。戦前の大悪法、「治安維持法」がもたらした悪行、悲劇への反省から誕生したと考えてよい。大日本帝国憲法はその第25条において「令状主義」を謳ってはいたが、有名無実、死文であった。実体法、手続法による担保がなされていないからだ。日本においては日本国憲法が令状主義とその例外の大枠を定めている。これらの憲法の規定を受けて刑事訴訟法は令状に基づいて捜査機関が行う捜索・差押等(同法218条)及び逮捕の場合における令状によらない捜索・差押等(同法220条)の手続を定めている。刑事訴訟法第220条に基づく「逮捕の場合における令状によらない捜索・差押等」については憲法違反の疑いがあるとの有力説が多数あり、突っ込みどころは満載だ。参考までに日本国憲法第35条を記す。(ハルキンボなんぞ読んでいるヒマがあったら、そして、吾輩の与太話などにつきあう余裕があるなら、「日本国憲法」を前文から全条文を読み、記憶することを強くすすめる。ひどい「悪文」だが、その思想、哲学には評価すべき点が多々ある。しかも、突っ込みどころは満載である)


 日本国憲法 第35条 第1項
 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

 日本国憲法 第35条 第2項
 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。


 そのころ、吾輩の下宿先がある文京区本郷周辺では3件の強盗強姦殺人事件が連続して起きていた。未解決。複数の目撃情報から「大柄な若い男」が捜査線上に浮上。大柄な若い男? おれじゃないか。取調べのときに犯行をほのめかすようなことをしゃべればボンクラ刑事どもは手柄を立てようと躍起になり、まちがいなく食らいついてくるはずだ。「冤罪に持ち込むという手もあるな。そうなれば、一躍、時の人だ」と吾輩は考えた。
 天涯孤独な貧しく若い男。強盗強姦殺人という凶悪な犯罪を犯すにはうってつけのキャラクターだ。吾輩は留置場の小さな鉄格子からのぞく満開の桜の樹を眺めながら「筋書き」を考えた。
 連続強盗強姦殺人。最高裁判所によって「永山基準」が示される何年も前だったが、まちがいなく死刑判決が下される事案だ。死刑と無罪(もしくは公訴棄却)。究極の対極。そこに身を置くことは痺れるような高揚感をもたらした。「おれはいままさに国家と逆立しようとしているのだ。ラスコーリニコフだって連合赤軍の奴らだってなしえなかったことだ」と。
 吾輩は「検事パイ」を目論んだ。検察官は「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができる」という刑事訴訟法第248条に規定される「起訴便宜主義」を逆手に取るのだ。前歴は残るがそんなものはたかが知れている。第一、「前歴」はすでにてんこ盛りで身についていた。 吾輩は「勾留理由開示請求」と「勾留取消の申立」を同時に行った。担当の刑事はものすごく困った顔をした。

 取調室にやってきたのは暗い眼をした年寄りの男だった。おおかた、「落としのヤスさん」とでも呼ばれているにちがいない。老練なベテラン刑事は椅子に座るなり、無言で吾輩の前に3枚の写真を並べた。3枚とも惨たらしい若い女の死体の写真だった。真ん中の写真の女はアルビノのように肌が白く、その白い肌に大量の鮮血が飛び散っていた。しめしめ。引っかかりやがったな。
「この女たち、知ってるか?」
 落としのヤスさんはくぐもったような声で言った。
 吾輩はこのとき、逮捕以後、初めて口を開いた。
「黙秘します。完黙、完全黙秘です。Nemo Tenetur se Detegere, Right to Remain Silent, Aussageverweigerungsrecht, Droit au Silence, 日本国憲法第38条に基づく黙秘権、自己負罪拒否特権を行使します」
 落としのヤスさんの胃のあたりからぎゅるるるという音が聴こえた。顔を睨みつけると落としのヤスさんはすっと眼をそらした。吾輩は「この勝負はおれ様の勝ちだ。もっと凄腕のデカを連れてこい」と思った。そして、死刑宣告を言い渡す大審問官の気分で言い放ってやった。
「あんたじゃ役者不足だ。もっと腕の立つ捜査官を呼ぶんだな。本庁の1課の課長あたりをな」
 落としのヤスさんの削げて青白い顔がさらに削げ、白っちゃけていくのがはっきりわかった。どこかから入り込んだ桜の香りが鼻先をかすめた。


ENJOY_THE_SILENCE1000PX.jpg





     
    関連記事
    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
    http://diogenezdogz.blog.fc2.com/tb.php/412-302ed0d4

    トラックバック

    コメント

    コメントの投稿

    コメントの投稿
    管理者にだけ表示を許可する

    Appendix

    プロフィール

    自由放埒軒

    Author:自由放埒軒
    Festina Lente.
    No Pain, No Gain.
    Fluctuat nec Mergitur.
    R U Still Down Gun 4?
    玄妙の言葉求めて櫻花
    薄紅匂う道をこそゆけ

    最新トラックバック

    カテゴリ

    Festina Lente.

    R U Still Down Gun 4?

    カレンダー

    10 | 2019/11 | 12
    - - - - - 1 2
    3 4 5 6 7 8 9
    10 11 12 13 14 15 16
    17 18 19 20 21 22 23
    24 25 26 27 28 29 30

    アクセスランキング

    [ジャンルランキング]
    小説・文学
    778位
    アクセスランキングを見る>>

    [サブジャンルランキング]
    オリジナル小説
    121位
    アクセスランキングを見る>>

    QRコード

    QR

    樽犬の子守唄

    Didie Merah
    Blessing of the Light

    樽犬が全速力で探します。