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ケヤキ坂24 夜はひとつの太陽である。

 

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 夜はひとつの太陽である。 E-M-M

 ケヤキ坂には64本の欅が植えられている。64本の欅は1本1本、表情が異なる。TSUTAYA側から坂を上り、テレ朝通りにぶつかるT字路で横断歩道をテレビ朝日側に渡る。そして、坂を下る。テレビ朝日のデジタル・アトランダム・モニュメントを左手に見て、再び横断歩道を渡り、TSUTAYA前に戻る。
 これらの一連の行動は、私の日々の儀式のごときもので、朝昼晩の三度、必ず行われる。ケヤキ坂の上り下りのあいだに私は欅の数をカウントし、欅の1本1本を観察し、欅どもと対話する。もちろん、幹や枝ぶりに変化があればデジタル・カメラで撮影し、記録する。それは私にとっては、ある種の「自己療養」であって、他にはなにひとつ意味などない。欅の本数を数え、幹の表皮の状態や枝ぶりや葉の状態を観察記録したところでどこにもたどり着けない。それでいい。いまや、すべては無意味さや不毛や荒涼でできあがっているからだ。

 さて、本日もケヤキ坂は過不足なく穏やかな一日を終えようとしていた。『ニュルンベルクの歌合戦』の序曲とともにレナウン・イエイエ女が現れるまでは。

「夜はひとつの太陽なのよ!」

『ニュルンベルクの歌合戦』の序曲とともにケヤキ坂の東側を物凄い速さで駆け下りてきたレナウン・イエイエ女は叫んだ。スターバックスの巨大なペンティ・サイズのカップを帽子がわりにかぶっていた。私はグランデ・サイズのキャラメル・マキアートをあやうく吹き出すところだった。手に余る大きさのグランデ・サイズのキャラメル・マキアートが地べたに落ちていたら、私は躊躇なくレナウン・イエイエ女に真空飛び膝蹴りを食らわしていたと思う。まったく、世界には油断のならない輩がいるものだ。このちっぽけで退屈で腐った世界には、「正直者が馬鹿をみる」と臆面もなくほざくインチキまやかし勘ちがいの倫ならぬ恋真っ最中の鎌倉夫人さえいる。そればかりか、大事なものだけ詰めこんだはずの薄汚れた鞄の中には「快楽」と裏切りと虚偽と虚飾しか入っていないにもかかわらず、常識と純朴と善人ぶったつまらぬ笑顔で偽装する不届き者も数知れない。

「夜はひとつの太陽なのよ!」

 レナウン・イエイエ女は私の目の前に立つと、私の眼の奥を覗き込みながら再び叫んだ。

「そんなのわかってるよ。」
「よかった。で、とりあえずセックスする? それとも、夜明けまでTSUTAYAで時間をつぶす?」
「おまえとはいま初めて会ったんだぜ。いきなりセックスはないだろうよ。」
「そんなもんかなあ。じゃ、TSUTAYAで暇つぶしでFAね?」
「だな。」

 このようにして、太陽の夜は始まった。夜明けまで9時間42分。




     
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