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午睡後、コルコバード星の散歩の途中、WAVEで産婆ノートを買い、アイルトン・セナ・ダ・シルバが眠るイモラ・サーキットのタンブレロ・コーナーにおいしい水を供えにイパネマの娘と思った矢先の出来事だった。

 
robson01.jpg

 夕暮れどき、まだ夏の盛りの余韻が残る神宮外苑の銀杏並木を鉄の馬で疾走中にとびきりの『Desafinado』は聴こえてきたのだった。愁いを含んでほのかに甘いアクースティック・ギターの調べに乗って。
 ホブソン・コヘア・ド・アマラル。生粋のカリオカ、リオ・デ・ジャネイロっ子だ。1月の川はたいてい冷たいがホブソンは明るく暖かくやさしい。シンガーであり、ギタリストであり、パーカッショニスト。在日13年。カタコトの日本語とたどたどしい英語とファンキーなポルトガル語を織りまぜて一所懸命話す姿がキュートだ。奥さまは日本人で、ツアー・コンダクターをされているという。
 神宮外苑の銀杏並木でホブソンと初めて会ったとき、彼は間近に迫ったライヴのレッスン中だった。ホブソンはママチャリを脇にとめ、ベンチに座って一心にギターを弾き、歌っていた。私がホブソンの前を通りすぎようとしたとき、彼はスコアから眼を上げた。そしてとびきりの笑顔を投げかけてきた。私も手持ちのうちの最高の笑顔をホブソンに投げ返した。

jobimwave01.jpg

 私は神宮第二球場で草野球の試合をしばし観戦し、もと来た道を戻った。ホブソンは前と同じように一心不乱に練習をしていた。私は『青山通りから12本目の銀杏の木の下』に鉄の馬を停め、ホブソンに近づいた。近づくにつれて、『Desafinado』は輪郭がくっきりとしてきた。それは名演と言っていい演奏、歌唱だった。その『Desafinado』は私の知るかぎり、スタン・ゲッツ & ホアン・ジルベルトの名演にも引けをとらないように思われた。『Desafinado』はホブソンの十八番であり、スタン・ゲッツ & ホアン・ジルベルトの演奏を聴いて以来、私のフェイヴァリット・ソングでもあった。調子っぱずれな人生を生きる者にはうってつけの曲だ。
 ボッサ・ノッバにほのかに薫る哀愁は、若く名もなく貧しき青春の日々と深くつながっている。ボッサ・ノッバは安アパートの一室で誕生した。まだ無名だった若かりしホアン・ジルベルトとアントニオ・カルロス・ジョビムが大きな音を出すことのゆるされない部屋で、ほかの住人たちに気づかって撫でるようにギターを弾き、小声でささやくように歌ったとき、ボッサ・ノッバは生まれたのだ。これはとても胸打つエピソードである。そのことをホブソンに言うと、「どうして知っているんだい?」と大きな眼をさらに大きくして言った。
「アントニオ・カルロス・ジョビム本人から聞いたのさ」
「ええええええっ!? ほんとに?」
「うそ。本で読んだのさ」
「うへぇ! 日本人はほんとに勉強好きなんだなぁ」とホブソンは言って、両手を天に向かって差し上げるような仕草をした。

GetzGilberto01.jpg

 ホブソンはそれから『黒いオルフェ』や『コルコバード』やボッサ・ノッバ風にアレンジした『上を向いて歩こう』を聴かせてくれた。私がお礼にビールをごちそうすると誘うと、ホブソンは「グーッド! グーッド!」を7回も連発した。
 銀杏並木沿いのいい雰囲気のレストラン、「セラン」に行き、通りに面したテラスでビールを飲みながら、日本のことやブラジルのことや音楽のことやサッカーのことやアイルトン・セナ・ダ・シルバのことやエドソン・アランテス・ド・ナシメントのことやナナ・バスコンセロスのことやパット・メセニーのことやホアン・ジルベルトのことやアストラット・ジルベルトのことやアントニオ・カルロス・ジョビムのことを話しているうちに私たちはとてもインティメートな気分になっていった。
「弾いてもだいじょうぶかな?」と眼のまわりをうっすらと染めたホブソンが尋ねた。
「ノー・プロブレムだと思うよ」
 エンジン全開になりつつある私は答えた。ホブソンはとてもキュートな笑顔を見せ、ケースからギターを出した。内心、私はお店のひとからたしなめられるかなと思ったが、ホブソンの涼しげなギターの音色と哀愁をおびた歌声が夏の終りの夕暮れの銀杏並木に流れ出すとまわりのだれもがしあわせそうな表情になった。曲が終わるたびにあちこちで拍手が起こったほどだ。「あちらのお客さまからです」と言って、若いギャルソンがビールを4杯持ってきた。私とホブソンはごちそうを山分けし、大ゴキゲンで飲み干した。蝉しぐれ、揺れる銀杏の葉陰、ボッサ・ノッバ  この夏の思い出にまたひとつ宝石が増えた気がした。 

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