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クマグス先生、島崎藤村の右頬のシミの謂れについて語る。

 

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 クマグス先生のげにも恐ろしき博覧強記、統合力の一端を象徴する話がある。何十年かぶりに故郷に帰還したクマグス先生は飲み屋で地元の者と会った。クマグス先生はそこである娘の「狐憑き」について地元の長老からなにくれと相談を受ける。クマグス先生は娘の家系を遡りつつ、狐憑き娘の一族の縁故由来の種々について縷々延々と述べたあと、「そのような次第なので娘に狐が憑くのは致し方ない」と結論する。その娘とクマグス先生が直接に知り合いだったわけではないし、その娘とその家系について事前に特段の調査、追跡をしていたわけでもない。クマグス先生の狐憑き娘の家系にかかる話はまことに微に入り細に入っており、その一族のある法事の席の膳にならんだ菜の品目、饗された酒の銘柄、当日の天候、風向きというような当の一族の者でさえ知らぬかおぼえていないことまでをも網羅するものであった。このようなところからも熊楠翁の桁外れの強記ぶりが知られる。天狗にしてみればどうということのない些末事にすぎないのではあるが。ちなみに吾輩のこれまでの言説中にたびたび登場する「冬眠を忘れた熊」とは南方熊楠翁のことである。

 さて、クマグス先生、會津八一、島崎藤村、柳田國男、そして吾輩によるてんでばらばらな変則五重唱が一段落し、一同がこれまたてんでばらばらに自家撞着についての反省に耽っているコヒーレントな時間を破ったのは最前より十歳ほども若返ったクマグス先生その人であった。若返りはクマグス先生お得意の「天狗の術」のひとつである。クマグス先生は島崎ハルキンボをぐいと睨みつけて言った。


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「ハルキンボよ。おまえの右の頬の大きなシミの謂れを教えてやろうかい?」
「は、は、はひぃ! 是非にお願い申します」
「かわりと言っちゃあなんだが、麻布笄町の若菜を吾輩によこせよ」
「え、え、ええええ! そ、そ、そんなあ! 若菜はあたくしの命でございますよ、先生」
「吾輩に命を差し出す名誉を土産に冥土へ旅立つがいいさ。冥土への旅立ちの前にアキバのメイド喫茶くらいは連れていってやろうさ」
「……。」
「おまえは先年の春の盛り、正確には五月一日、メーデーの夕刻、姪っ子の若菜の家で若菜とたっぷり御懇ろに及んだのちの帰りの道すがら、ノダフジの枝のひとくれを手折って自宅に持ち帰ったな?」
「な、な、な、なんと! なしてそのことを知っておられますか!」
「吾輩は天下御免天下無双の南方熊楠である! 南方熊楠を知らんか!」
「それはおれの専売だから!」
 傍で事態の成り行きをじっと聴いていた會津八一が口を挟むがクマグス先生も島崎ハルキンボも相手にしない。會津八一は「黙す。」とだけ言って、実際、シベリアの永久凍土のように深々と沈黙した。それを見届けたクマグス先生が口を開く。
「ハルキンボよ、おまえの右頬の醜悪なるシミはおまえが手折ったノダフジの精の仕業だ」
「じぇじぇ! じぇじぇじぇのじぇ!」
「きさま! 朝の連ドラぱくりすぎてるから!」
「ゲゲ! ゲゲゲのゲ!」
「それもだから!」
 床の間の脇の小さなテレビ受像機から泉ピン子の嘘くさいインチキ付け刃の山形弁による台詞回しが聴こえてきた。泉ピン子の傲岸不遜で耳が腐るような声に虫酸が走り、腑のすべてが煮えくりかえる。思えば、銀山温泉にはいまもポンコツ・スーパーマーケット誕生前史となった話にまつわる土産の品々が埃を被って並んでいる。売れればひとつあたり何十円かが橋田壽賀子と石井ふく子の薄汚れた懐に入る仕組みだ。
 橋田壽賀子、石井ふく子一味のやることは茄子事ヤル事脱税事、常に陳腐でまやかしで退屈である。渡る世間はみんなで渡ればこわくもないような甘ちゃん世界であり、鬼の居ぬ間に命の洗濯どころか「オサレなランチ」と「豪華豪勢ステキステキのディナー」の大行列、グロテスクなエゴイズムと愚にもつかぬ「認知欲求」と「親和欲求」にまみれた鬼ごっこばかりである。頓知協会も顔色なし、『スコブル滑稽面白半分新聞』の腕っこき記者がそのうちそのカラクリを嗅ぎつけて「威武に屈せず富貴に淫せず、ユスリもやらずハッタリもせず、天下独特の肝癪を経とし、色気を緯とす。過激にして愛嬌あり」とばかりに宮武外骨、森鳴燕蔵以下の反骨土性っ骨モッコスイゴッソウジョッパリの面々が駆けつけるのは必定である。そんな重大局面を知ってか知らずか、島崎ハルキンボの末成りボンクラヘッポコスカタンは美醜の戯けごとに御執心の様子である。

「クマグス先生、いったいこのシミを消すにはどうしたらばようござんしょうか?」
「そうだな。まず手始めに姪っ子の若菜を吾輩によこせ」
「またそれでござんすかい?」
「おうよ。それでござんすよ」
「手始めのあとはどうなりましょうか?」
「そいつは漱石と鴎外と芥川に相談だ。岩波のポンコツ茂雄にもな」
 漱石山房の御一統様と帝国陸軍メディカル・ギャングスターズの一団の足音が文豪然と近づいてくる。


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