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海に落ちる滝が見える季節はずれの二人きりのビア・ガーデン

 

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「またヒトデか」と思った。「男は黙ってサッポロ・ビール。脚線美の誘惑仕込みだけど打ち水にレインボウ」な時代をともに戦った戦友のヒトデではあったが、「彼のパパは東へ行けと言った」とヒトデが言った途端にわれわれの友情は終わりを告げた。そのことについて東八郎風に記す。

「鳴ってなんぼなんですよ、世界は」とヒトデが言ったとき、吾輩は痛風発作の予兆を嗅ぎ取り、コルヒチンに手を伸ばした。コルヒチンの奴めがちょっと不機嫌な顔をした。ヒトデは天井から滴り落ちる数の子をル・サングロロンしていた。まったく、明け方のヒトデには困ったものである。
「それはさておき、横尾忠則がぶっこくわけですよ。世界がすべて宝塚になっちゃえばいいって」とヒトデがぶっこくのを吾輩は65刹那だけ聴いた。つまり、1指パッチン分。つまり、世界はワンクリックで水平に並列。そして、傷は傷だし、痛みは痛みだし、距離は距離だし、巨泉は死ねばいいのに。森繁はとっくに死んだと思う日々が長いあいだつづいて、やっと森繁は死んだ。森光子も死んだ。物事は順番であるという天然自然のしきたりがやっと元にもどったのだ。ヒトデはまだ喋っている。

「この冬のあいだ中、ずっと考えていたんです。ヤマハの製品みたいにいつでもどこでもヤマハな存在になりたいって。でも、それは絶対に自分には無理なんだってことにようやく気がつきました。気がついたとき、数の子天井は消滅してました」

 そう言ったきり、ヒトデはもう二度と口をひらこうとしなかった。二人きりのビア・ガーデンに100年ぶりに春風が吹いた。それは表面上は清々しく心地よかったが、とてもどてっ腹にこたえる風だった。海が420メートルほど盛り上がり、しばらくあたりを睥睨してから巨大な海岸瀑になった。ナショジオニストの立場から言うならば、「海に落ちる滝」は滝の形状分類上からは「海岸瀑」と言って、稀少ではある。ピエール・エルメの苺大福くらい稀少である。是非一度、苺1a号パフェを食しながら滝垢離したいものだ。しかし、もうあらゆることがどうでもよかった。


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「東へ行きなさい」とヒトデのパパが言った。
「東というのはどこですか?」と吾輩はたずねた。
「西にたずねなさい」とヒトデのパパは答えた。
「西というのはだれですか?」
「南のライフ・セーバー、ヨーコが詳しい」
「南のライフ・セーバーのヨーコさんにはいつ会えますか?」
「北杜夫はまったく退屈だ」
「同感ですけど、ヒトデくんのお父さんはめちゃくちゃですね」
「そうとも。だからこうしてきみと二人きり、海に落ちる滝が見えるシーズン・オフの幻の羽澤ガーデンにいるんじゃないか」
「ええ、まあ」
「しかし、ここは恵比寿のサッポロ・ビール園と縁もゆかりもないのに、なぜサン・ミゲルのビールしか置いていないんだ?」
「たぶん、イマ/ココがマニラのスモーキー・マウンテンもしくはワン・クリックで垂直に直列なハンバーガー・ヒルだからですよ」
「なるほどね」


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 ヒトデ。彼は今頃どうしているんだろう? ヒトデ。クールでスマートでプリティだったヒトデは。趣味は特撮だった。人生、天井、酒。好きすぐるけど、距離感。保谷市と日本光学の目黒工場にやたら詳しかった。海岸瀑が悪意と憎悪の塊のような轟音を立てて人々を飲み込んでいる。黙って生あたたかいビールを飲むが不味い。とても不味い。不味いものを「ズマイ」と言うのはヒトデの口ぐせだ。
 さらに黙って生あたたかいビールを飲むがズマイ。スマップの歌のようにズマイ。ズマくないズワイガニが食べたい。桜の花びらが紙吹雪のように降っている。ずっと降りつづいている。あたりに桜の樹なんか1本もないのに。変な春だ。


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