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ロストロポーヴィチの春、夜明けの口笛吹きの狂気

 
 
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夜明けの口笛吹きの狂気はいつ原始の母に癒されるのか?

吾輩の世界の天井の朝、一日の始まり
昨夜、おそろしくひさしぶりにピンク・フロイドをじっくりと聴いた。正確には高校1年の春に聴いて以来である。夜ふけに聴きはじめ、最後に12回目の『The Great Gig in The Sky』を聴きおえ、コンピュータをシャットダウンしたのが午前5時12分。夜明けちかくだった。


The Dark Side Of The Moon-1200PX


ベランダに出て、口笛を吹いた。夜明けの口笛吹きだ。口笛を吹き終えて耳を澄ます。鳥のさえずりなど聴こえない。聴きたくもない。眠らぬ者には無用だ。

高校1年生の春休みのときの「狂気」と2013年の春の盛りの夜明けの「狂気」。そのあいだに吾輩の「狂気」はその質と量と深さを大きく変えた。大変貌した。いまは世界のあらゆることどもが腹立たしく、苛立たしく、憎々しい。この楽園のごとき春の朝にあってもだ。

熱いカフェ・オ・レをいれ、シュクレをしこたまぶち込んでガブガブ飲む。2杯。ときに3杯。マフラーをきつく締め、35年もののダッフルコートを着こみ、ポルコロッソを伴って朝の見回りに出る。リュ・カンボンを渡る。そして、オテル・リッツの裏口からヴァンドーム広場へ抜ける。これが吾輩の世界の天井における朝、一日の始まりだ。

世界の天井の下の吾輩のストューディオがあるメゾンの入口の天井と葡萄酒色の扉とどんよりしょんぼりの巴里の空の下、リヴェ・ドゥ・ラ・セーヌ・ア・パリは本日もバトー・ムーシュやら洗濯船やらいんげん豆船やらが「実存実存」とけたたましく汽笛霧笛を鳴らしまくりながら行き来するのを文句ひとつ言わずに流れつづけるのだが、それが実は夢だということはないのであるか? 夢のまた夢だということは。


Rostropovich-1200PX3.jpg


朝はJ.S. バッハ『無伴奏チェロ組曲 第1番 プレリュードとサラバンド』を繰り返し聴く。演奏はムスティスラフ・レオポリドヴィチ・ロストロポーヴィチ。ジャンルも時代も楽器も問わずにもっとも好きな演奏家の一人だ。ベルリンの壁崩壊のときに彼がベルリンの暗鬱で鈍色をした空の下、壁の前でただ一人チェロを弾く姿を生涯忘れない。

威厳と慈愛と孤高。
類まれなる単独者。


激しく心をふるわさずにはおかない光景だった。パブロ・カザルスとどちらを取るかと言われると困るが、ミッシャ・マイスキー、ヨー・ヨーマが相手なら、一も二もなく、ロストロポーヴィチを取る。格がちがう。志がちがう。ロストロポーヴィチの前では、ミッシャ・マイスキー、ヨー・ヨーマなど、まだ青二才の小僧っこにすぎない。


Rostropovich-Complete_DECCA_RECORDING-800PX.jpg Mstislav_Rostropovich-CELLO_WORKS-800PX.jpg


圧倒的な技巧。奥深く秘められた熱情と反骨。ほのかに香り立つ気品と風格。揺るぐことのない技量と豊かな音量に裏打ちれたスケールの大きな表現性。なにもかもが圧倒的だった。

ロストロポーヴィチのチェロを聴いていると母親に抱かれているような心ふるえる錯覚にしばしば陥った。原始の母の腕懐の中で眠る至福。そのまま死んでしまいたいとさえ思う。しかし、セロ弾きのムーシャの暢気眼鏡の奥で光る眼にはひとかけらの笑いもない。その眼には深く重い悲しみが宿っている。

いったいいつになったらセロ弾きのムーシャは心の底から笑い、ロストロポーヴィチの春は訪れるのか? そして、夜明けの口笛吹きの狂気はいつ原始の母に癒されるのか? ムスティスラフ・レオポリドヴィチ・ロストロポーヴィチの暢気眼鏡の奥で光るものの意味が解明されることはあるのか?

ムスティスラフ・レオポリドヴィチ・ロストロポーヴィチが逝って六度目の春がやってくる。


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Pink Floyd - The Great Gig in The Sky
Mstislav Leopol'dovich Rostropovich - J.S. Bach: 6 Cello Suites




     
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