FC2ブログ

Entries

一千億の屍を越えて#1 パリは燃えているか?

 

BOOK_IS-PARIS-BURNING_800PX.jpg
 

 ナパームは線香花火となり、メガデスすら子供騙しとなった時代を我々は生きている。
 
 
 1940年5月9日、オランダ、ベルギーに侵攻した”砂漠の狐”エルヴィン・ロンメル率いるドイツ軍機甲師団はフランス北部フランドル地方のアンデルヌ大森林地帯を抜け、いっきにパリを目指した。まんまと出し抜かれたかたちのフランスの守備の要、マジノ線守備隊は直接ドイツ軍と戦う部隊に増派できなかったばかりか、ドイツ軍部隊の補給線を断つことすらもかなわなかった。ドイツは機甲師団機械化部隊とユンカース急降下爆撃機による「電撃作戦」でフランス軍の抵抗を難なく粉砕。6月14日、ついにパリに入城する。フランス侵攻に際し、パリを焼き払うよう事前に命令していたヒトラーは、パリに迫る軍司令官に直接連絡を取り、「パリは燃えているか?」とたずねた。このとき、アドルフ・ヒトラーの脳裡にはいったいどのような「音」が鳴り響いていたのか。あるいは、彼が夢みていたといわれる「千年王国」とはいかなるものだったのか。「アドルフ・ヒトラー的なるもの」は、実はわれわれの中にもひっそり息づいているのではないのか。あるいは、われわれは「アドルフ・ヒトラー的なるもの」の再登場を我知らぬうちに望んではいないか。


KAKO-TAKASHI06_IS-PARIS-BURNING_800PX.jpg


 加古隆『Is Paris Burning?』はNHKスペシャル『映像の世紀』のテーマ曲だ。加古隆はクラシック、ジャズ、現代音楽、民族音楽、フォークロアなどの要素を融合させた独自の作曲形式を確立した。オリジナル作品の演奏を中心に活動する現代屈指の音楽家である。即興性を重視した演奏スタイルによって、自然、哲学、文学、思想、美術、建築、舞踊など異分野から多くの着想をえた作品は、その演奏スタイルとともに加古の「思想」と「哲学」を表現する。加古の音楽スタイルは自由そのものだ。表現の幅は自由闊達、広大奔放で個性に富む。加古はかつて言ったものだ。

「活動拠点は地球だ」

 この言葉どおり、パフォーマンスの舞台は全世界におよぶ。日本よりも外国における評価がすこぶる高い。地球をまたにかけて、日々、大陸横断、太平洋ひとまたぎのスーパー・カコ。脱帽だ。こちらが脱帽してもスーパー・カコはけっして帽子を脱がない。スーパー・カコは「例の帽子」とワンセットで加古隆だからだ。是非を問うてはならない。「そうだからそうなのだ」という世界もまた存在するのである。
 余計な装飾音をいっさい省き、一気に核心に迫るシンプルな主旋律。壮大な叙事詩のごとき展開。細やかさと荘厳さと透明感を両立させた音色。徹頭徹尾リアリズムに徹し、叙情、感傷を極力排するストイシズム。それでもなお、否応もなく立ちのぼる馨しく高貴な哀愁。ピアノはオーストリアの銘品、ベーゼンドルファーを長く愛用し、荘厳、荘重、重厚な響きにこだわる。「スタインウェイは軽妙、繊細すぎて、私の音楽スタイルにあわない。激情、荒々しさ、野生に耐え、表現しうるのはベーゼンドルファー以外にない」と発言したことが、一部の好事家のあいだで物議を醸した。「チェコフィルの松脂の飛び散る音」がどうたらこうたらと蘊蓄を垂れるくらいが関の山のへなちょこどもはおとなしくタンノイのキャビネットでも磨いていろと一喝したいところだが、ここは物静かに居ずまいをただして『Is Paris Burning?』を聴いておくことにする。


KAKO-TAKASHI03_800PX.jpg


 加古は作品世界の奥深くまで入り込むためにすべて暗譜で演奏する。加古隆の演奏姿勢に「禅」の精神性をみるという識者も多く、海外、特にヨーロッパにおいて加古がきわめて高い評価を受ける理由のひとつでもあるように思われる。
 加古隆の音楽、思想は「事実」の集積によるものである。徹底したリアリズムこそが揺るぎなきロマン、ユマニテを表現しうるのだということを加古の音楽は示している。
 事実。重要なのは事実だ。なまくらな「人道主義」、中途半端な「現実主義」、薄っぺらな善意と甘っちょろい「理想主義」、寄辺なきあさはかなニヒリズム乃至はアナキズム。それらは「事実」の前に沈黙する。
 加古隆の『Is Paris Burning?』は事実の音楽である。音楽というよりももはや思想あるいは哲学である。上滑りした理想論や人道主義や現実主義やあさはかなニヒリズムでスカしたりヨタったりするまえに、まず、じっと加古の『Is Paris Burning?』に耳を傾けよ。心の耳をすまし、『Is Paris Burning?』の弦とピアノのひとつひとつの響き、旋律、音色を聴け。そこには「事実」がある。「事実」を積みあげることによってしか表現しえぬ「真実」がある。
 われわれにもし、未来とやらがまだ肯定的なものとして残されているのなら、この事実、この真実を拠り所として歩みを進めるくらいの余地はまだいくぶんか残されている。道は細く長く曲がりくねり荒れ果てているが歩けぬことはない。「七つのラッパ」はまだすべては吹き鳴らされていない。

 準備せよ。Is Tokyo Burning? 「東京は燃えているか?」と打電する者は「そのとき」がくるのをじっと息をひそめて待っている。 

 ヒマラヤほどの消しゴムひとつ、ミサイルほどのペンを片手に 、「心にしみ入る木の響き」のベーゼンドルファーとともに、きょうもスーパー・カコは地球を飛びまわる。


KAKO-TAKASHI_SHIKSHI_640PX.jpg


 Is Paris Burning?/パリは燃えているか? - 加古隆


 準備せよ。
 Is Tokyo Burning? 「東京は燃えているか?」と打電する者は「そのとき」がくるのをじっと息をひそめて待っている。





     
    関連記事
    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
    http://diogenezdogz.blog.fc2.com/tb.php/299-9d39082f

    トラックバック

    コメント

    コメントの投稿

    コメントの投稿
    管理者にだけ表示を許可する

    Appendix

    プロフィール

    自由放埒軒

    Author:自由放埒軒
    Festina Lente.
    No Pain, No Gain.
    Fluctuat nec Mergitur.
    R U Still Down Gun 4?
    玄妙の言葉求めて櫻花
    薄紅匂う道をこそゆけ

    最新トラックバック

    カテゴリ

    Festina Lente.

    R U Still Down Gun 4?

    カレンダー

    01 | 2020/02 | 03
    - - - - - - 1
    2 3 4 5 6 7 8
    9 10 11 12 13 14 15
    16 17 18 19 20 21 22
    23 24 25 26 27 28 29

    アクセスランキング

    [ジャンルランキング]
    小説・文学
    167位
    アクセスランキングを見る>>

    [サブジャンルランキング]
    オリジナル小説
    20位
    アクセスランキングを見る>>

    QRコード

    QR

    樽犬の子守唄

    Didie Merah
    Blessing of the Light

    樽犬が全速力で探します。