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スタンドバイミーの男#4 名前のない馬

 
 
Horse_ArabianSSS00_800PX.jpg
 
驚くべきことに太っちょハンセンは「フェンスの向こう側のアメリカ通り」の歩道をヤマハのタウンメイト90を押して戻ってきた。滝のような汗。泣きっ面。鼻水も垂らしている。顔は真っ赤だ。まるで消防車のホースで水をかけられてアドリア海の自由と放埒の海に真っ逆さまに墜落した直後の紅の豚みたいだった。困憊の太っちょハンセンのことなどおかまいなしにITは言った。

「おれの名はインディアン・ビリー。こいつがキャプテン・アメリカだ」
「か、か、か、カッコイイね・・・。で、 ぼくは?」
「おまえはフトハン、太っちょハンセンだ」
「ぼくだけ情けないじゃないかよう」
「よく耳の穴をかっぽじいて聴くんだ、太っちょハンセン。おまえは”名前負け”という言葉を知っているか?」
「名前負け? なんとなく」
「いまのおまえに太っちょハンセン以外の名前をつけても名前に負けちまうんだ。わかるな?」
「わかったよ。いつかカッコイイ名前をつけておくれよ」
「承知した」
「きっとだよ」
「きっとだ」
「ほんとのほんとにきっとだよ!」
「ほんとのほんとにきっとだとも! いずれおまえが一人前のイージー・ライダーズになった暁にはふさわしい名前を考えてやる。いいな? わかったな?」

フトハンは渋々うなずいた。

「いい子だ。それとな、おれの馬の名はゴドルフィン・ネロ。キャプテン・アメリカの馬はダーレー・アメリカン」
「馬なんかどこにもいないじゃないか」
「おまえの目ん玉は穴なし50円玉か? それともたまご屋のビー玉か?」
「視力は2.0だよ!左右ともだよ!」
「心を落ち着けてよく聴くんだ。寝ていても水を飲んでも空気を吸っても太る男よ。視力が左右とも2.0だろうと、おまえにはものごとの表面、上っ面しかみえていないんだ。心の目でみてみろ。本質を見極めるんだ。表面、上っ面に惑わされるんじゃない。さすれば、われわれの馬たちが嘶き、後ろ足で立ち上がり、トランシング・ホースとなって宇宙の果てまで駆け出そうとしているのがみえるはずだ」
「ぼくには新聞屋のおんぼろカブが2台とヤンキー・ナンバーのDAXしかみえないよ」
「黙れ! 愚か者!」
太っちょハンセンはいまにも泣き出しそうだった。
「わかったよ。で、ぼくの馬の名前は?」
「ない」
「え?」
「おまえの馬に名前はない」
「えええええ! どうしてぼくの馬だけ名無しなのさ!」
「名無し? 名前がない? 名前はいま決まったぞ! 太っちょハンセン! おまえの馬の名は”名前のない馬”、A Horse With No Name だ!」

Horse08_800PX.jpg

太っちょハンセンは轟音とともにその場に崩れ落ちた。その振動の影響で山下公園のほうからマリンタワーがすっ倒れ、氷川丸が沈没する音がはっきり聴こえた。チャーミング・セール中の元町には災害時緊急コード発令を報せるサイレンが鳴り響き、中華街と横浜文化体育館と馬車道と伊勢佐木町は四つ巴の乱闘を始める始末だった。

横浜駅東口のスカイビルは回転部分に大きな亀裂が入り、以後、二度と回転しなくなってしまった。私は太っちょハンセンはイージー・ライダーズの強力な秘密兵器になることを確信して満足だった。夏の空に入道雲からちぎれたひとかたまりのうす桃色の雲が浮かんでいた。ITはその雲を指差し、山村暮鳥の『雲』を大声でうたいはじめた。

おうい雲よ
ゆうゆうと
馬鹿にのんきそうじゃないか
どこまでゆくんだ
ずっと磐城平の方までゆくんか


かくして、太っちょハンセンのヤマハ・タウンメイト90の名は「名前のない馬」に決まった。ムーン・ライダーズとの「小港橋の決闘」がすぐそこに迫っていた。



AMERICA - A Horse With No Name

AMERICA_AMERICA_800PX.jpg


名前のない馬/A Horse With No Name
Written by Dewey Bunnell, 1971


On the first part of the journey
I was looking at all the life
There were plants and birds and rocks and things
There was sand and hills and rings
The first thing I met was a fly with a buzz
And the sky with no clouds
The heat was hot and the ground was dry
But the air was full of sound

旅のはじめに僕は人生のすべてを見渡そうとした。
草花と鳥たちと石ころと宇宙のすべてと砂丘と馬をつなぐ場所があった。
最初に出合ったのはうっとうしい蠅だ。
空には雲ひとつなかった。
熱風が吹きつけ、大地は乾ききっていた。
しかし、僕のまわりには音が満ち満ちていた。

I've been through the desert on a horse with no name
It felt good to be out of the rain
In the desert you can remember your name
'Cause there ain't no one for to give you no pain
La, la ...

僕は名前のない馬に乗って砂漠を渡っていった。
雨に降られずにすむのはごきげんだった。
砂漠では君は自分の名前も思い出せない。
誰もが君を傷つけるからだ。
ラーラーラーララララララララーラ
ラーラーラーララララララララーラ

After two days in the desert sun
My skin began to turn red
After three days in the desert fun
I was looking at a river bed
And the story it told of a river that flowed
Made me sad to think it was dead

2日目、砂漠には太陽が照りつけていた。
僕の肌は赤く焼けはじめていた。
3日目、「砂漠の楽しみ」がみつかった。
僕は川底を見ていた。
「川の物語」を聴くと、死のようで悲しくなった。

You see I've been through the desert on a horse with no name
It felt good to be out of the rain
In the desert you can remember your name
'Cause there ain't no one for to give you no pain
La, la ...

君は名前のない馬に乗って砂漠を渡っていく僕を見る。
雨に降られずにすむのはごきげんだった。
砂漠では君は自分の名前すら思い出せない。
誰もが君を傷つけるからだ。
ラーラーラーララララララララーラ
ラーラーラーララララララララーラ

After nine days I let the horse run free
'Cause the desert had turned to sea
There were plants and birds and rocks and things
there was sand and hills and rings
The ocean is a desert with it's life underground
And a perfect disguise above
Under the cities lies a heart made of ground
But the humans will give no love

9日後、僕は馬を放してやった。
砂漠から海へと抜けたからだ。
そこには植物が生い茂り、鳥が歌い囀り、石ころと宇宙のすべてと砂丘と馬をつなぐ場所があった。
砂漠の海は人生を地底世界に完璧に覆い隠している。
うそとまやかしだらけの都会の地べたの上で「約束の地」を思い描くけれど、誰も愛を与えてくれはしない。

You see I've been through the desert on a horse with no name
It felt good to be out of the rain
In the desert you can remember your name
'Cause there ain't no one for to give you no pain
La, la ...

君は名前のない馬に乗って砂漠を渡っていく僕を見る。
雨に降られずにすむのはごきげんだった。
砂漠では君は自分の名前すら思い出せない。
誰もが君を傷つけるからだ。
ラーラーラーララララララララーラ
ラーラーラーララララララララーラ


Horse-Beach_800PX.jpg




     
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