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スタンドバイミーの男#1

 
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【シンクロニシティ・ストーリーズ#1】


スタンドバイミーの男 /シンクロニシティ1丁目1番地1号住人

夜の帳がシンクロニシティの街をおおいつくし、「戸締まり、火の用心」を呼びかけるシンクロニシティ消防局の防災放送とともに、どこからともなく『STAND BY ME』が聴こえてくるとある男のことを思いだす。仮にITとしておく。ITは私の古い友人であると同時に、孤独と困難と困憊と裏切りにまみれた勝ち目のない戦いをともに戦った戦友でもあった。

ITはなにかというと『STAND BY ME』を派手なパフォーマンス付きで歌う男だった。仲間の母親の葬儀であろうが、吉村家で下卑たギトギトのラーメンをむさぼり喰っているときであろうが、セントラルヴィレッジ・ブリッジのたもとで飲酒検問にひっかかり、鬼瓦のようなご面相の警察官に大目玉をくらっていようが、おかまいなしに「ダ~リンダ~リン♪」である。

ITのスタンドバイミー・パフォーマンスは日時、天候、距離、明暗、形式をわきまえぬ無法ぶりでつとに知れわたっており、われわれの住む街シンクロニシティではITがあらわれると、店のシャッターは音を立てておろされ、厳重に戸締まりをする者どもが続出した。痛快といえば痛快、愉快といえば愉快だが、最大の問題はITがケタはずれの音痴であることだった。私はITの歌声を聴いて、少なくとも7度吐いたことがある。絶交を考えたことは数えきれない。

ITの妻から彼の死の知らせを受けたとき、私はMac Miniを起動し、iTunesを起ち上げてプレイリストの「心さびしいときに聴く音楽」を選択し、ベン・E・キングの『STAND BY ME』をダブルクリックした直後だった。「またシンクロニシティだ」と私は思わずつぶやいた。

ジェームズ・ブラウンの死を知ったときも、私は『SEX MACHINE』を聴きながら、JBの牧師の説教のような歌いっぷりをまねて奇声をあげているさなかだった。『SEX MACHINE』が山場を迎え、私が絶妙の「ゲロッパッ!」をキメたとき、虹子はいぶし銀のごとき遊撃手の正確無比なスローイングのようにピシャリと言い放った。

「JBが死にましたわよ」
まさに絶妙のタイミングだった。
「ジャクソン・ブラウンか?!」
「ジェームズのほうです」

私は『STAND BY ME』をリピート・セットし、虹子フラグが立つ寸前のレベルまでオーディオ装置のヴォリュームを上げた。

スティーヴン・キング原作の映画『STAND BY ME』をみたのははるか大昔だ。あれは私の心が石ころに変貌を遂げてから3度目の夏だったように記憶している。原作の『THE BODY/死体』はスティーヴン・キングらしい「風変わりで奇妙な恐怖」を随所に散りばめた掌編で、映画で描かれたような「青春物語」などではなかったが、私は映画のほうが好きだ。小説と映画という枠組みのちがいを差し引いても、私は映画のほうに軍配を上げる。

映画は青春時代のほろ苦い思い出をせつなく美しく、ときに生々しく描いていて好感がもてた。のちに小説家となるゴーディを演じた少年は好演だったし、ゴーディの親友役のクリスを演じるリヴァー・フェニックスは悲劇の死を迎えることも知らずにすばらしい演技をみせ、いま見なおすとその悲劇的な死ともあいまってせつなくなる。

夏休みが終わり、新学期が始まって、ゴーディ少年は「ひと夏の冒険と恐怖」をともに経験した仲間の一人と街ですれちがい、相手はほかの同級生と楽しそうにしていてゴーディに見向きもしないシーンには胸の奥のほうがかなり痛んだ。おなじような経験が何度もあったからだ。成熟が「喪失」の異名でもあることを知るきっかけとなる映画だった。

スタンドバイミーの男、ITを殺した犯人は幼なじみだ。仮にTHATとしておく。ITの死体はバラバラに切断されたうえに小学校の校門に生首が晒された。その小学校はITと犯人と私の母校でもあった。犯人の男はシンクロニシティ消防局の古株の消防士で、取り調べの際、IT殺害の動機について「積年の怨みを晴らしたまでだ」と反省のそぶりもみせずに供述した。積年の怨み? 酒鬼薔薇聖斗じゃあるまいし。だが、犯人はおそらく酒鬼薔薇聖斗の犯行声明文の文言を真似したにちがいなかった。

犯人の消防士は私もよく知っている男だが、私が生きてきた50年の人生の中でも5本指に入る「いやな奴」だった。金輪際、「自己犠牲」とは縁のない奴。こどもの頃からいかなる状況においても常に安全地帯に身を置き、それが脅かされそうになると躊躇なく仲間を裏切った。

殺されたITはうそとごまかしとまやかしときれいごとが大嫌いな奴だった。嫌いどころから憎んでさえいた。そんなITの口ぐせは「うそくせえ」だった。私がITを戦友と認めておなじ陣営に立ち、ともに隊列を組んだのもITのそんなところに魅かれ、信頼したからだ。

ITはこどもの頃から、ことあるごとに犯人である消防士の男の「うそくささ」をなじった。ITはからだも大きく、腕力もなかなかのものだった。消防士の男は背は高いが痩せぎすで気の弱いやつだった。「積年の怨み」という言い分がまったく根拠がないわけではないようにも思える。殺されるのが私であったとしても不思議はない。ITと私はいつも行動をともにしていたからだ。

私自身が消防士の男を満座の席で糾弾したのも一度や二度ではない。それもぐうの音も出ぬほどに。街で偶然に行き会ったときの消防士の男、THATの暗く陰湿な眼はいま思い返しても虫酸が走る。

話はすこしそれる。
ボブ・ディランはかつて「新しさ」ばかりを盲目的・無自覚に追いつづける人びとに警鐘を鳴らした。

「現代文化をすべて忘れ去って、キーツの詩やメルヴィルの『白鯨』を読み、音楽はウディ・ガスリー、ロバート・ジョンソンを聴くべきだ。現代人はいまだに19世紀すら消化できていないのだ」

この警鐘はもちろんいまも有効である。ディランの鳴らす鐘の音が聴こえない者はよく耳の穴をかっぽじったほうがいい。
ボブ・ディランにかかわることで印象深いのは、ボブ・ゲルドフが提唱した「Band Aid Movement」に触発され、自分たちも負けてはいられないとばかりに厚顔無恥にもそっくりそのままパクり、「アフリカの貧しい人びとを救おう」という大仰御大層な旗印のもと、豪華ご立派な顔ぶれをこれでもかというくらいに呼び集めて行われた『We Are The World』の収録現場におけるボブ・ディランの表情だ。

アメリカ合衆国の五木ひろしことコモドアーズのライオネル・リッチーやショタ公マイケル・ジャクソンや自己啓発セミナーの伝道師ことブルース・スプリングスティーンや三流三下おちゃこちゃ小娘シーラ・Eらが上っ調子に「薄っぺらな善意」をふりまく中、ディランだけはその場のすべてに対して戸惑い、異和を感じ、首を傾げ、距離を保っているように見えた。

あのときのステージで、はにかみ、いやがるディランを無理矢理、最前列中央にひっぱりだした大うつけ者、たわけ者どもは、いまごろ、ふかふかのベッドで惰眠を貪り、脂肪たっぷりのファックな豪華ディナーに舌鼓を打ちながら、「今夜のお相手」の耳元に歯の浮くようなたわ言を囁いているんだろう。ことほどさように世界はうそっぱちと愚鈍と放蕩とに満ちあふれている。考えただけで虫酸が走る。疲れる。

ボブ・ディランの戸惑い、異和は『We Are The World』をカルト宗教のイヴェント、馬鹿騒ぎ、お祭り騒ぎにすぎないと苦々しく思っていた私自身の戸惑いでもあった。当時、さんざっぱら『We Are The World』はすごい、すばらしいを連呼し、アフリカの飢えた子供たちのためにできることをなにかしようと吹聴しまくっていた軽佻浮薄なやつが、数年後、後輩の女房を寝取り、その後輩を自殺にまで追い込むという出来事があった。その軽佻浮薄男こそがIT殺しの犯人、THATだ。


Ben E. King『STAND BY ME』




     
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