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マカロン・ダンディ#1

 
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 男は目をひいた。白いフラノのパンツ、白いBDシャツ、そして、淡いブルーのジャケット。冬の移動祝祭日の世界の天井の空のような。胸にはうす桃色のポケットチーフがのぞいている。足元を見れば、トップサイダーの海軍色のデッキシューズが軽快にステップを踏んでいる。季節はずれと言えば季節はずれだし、場ちがいと言えばこのうえもなく場ちがいだった。少なくとも真冬の葬列にはそぐわない。ここは夏のキーウェストのカクテル・パーティ会場ではない。しかも、ひと抱えほどもあるかすみ草を右の肩に担ぎ、ピエール・エルメの大きなギフト・ボックスを脇に抱えている。

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 顔はつやつやとし、髪は短く刈り込まれている。だれもが男に強い違和を感じている。しかし、女たちだけは違和とともに男に興味を持っている。
「彼はだれ?」
 葬列の中の女たちが囁き合う。男の名はトマ・プラリネ・ジャンジャンブル。男を知る者は「マカロン・ダンディ」と呼ぶ。しかし、男の本当の名を知る者はいない。「謎の男、トマ」と言う者もいるほどだ。氏名、職業、国籍、年齢、住居、性癖、すべては謎の深い霧の奥だ。

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 死んだのは若い女だった。しかも、とびきり美人の。若くてとびきり美人で金持ちで恋多き女。トマ・プラリネ・ジャンジャンブルは祭壇の正面に立ち、作り物のような笑顔を浮かべる死んだ若い女の遺影をしばらくみつめる。そして、サヴィル・ロウの SR Executiveを外し、ポケットチーフでくるんで胸ポケットに戻す。それから、祭壇にかすみ草の花束とピエール・エルメのギフト・ボックスを置いて静かに眼を閉じ、なにごとかをつぶやきはじめる。それまで寒いながらも風はなく、透き通るような青空がひろがっていたが、風が急に強くなり、青空はみるみる黒い雲に覆われ、冷たい大粒の雨が降り出す。雷鳴がかすみ草の華麗で清楚な花弁をふるわせる。そして、生涯にわたって忘れえぬ異界の刻が始まった。




     
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