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ハンバーガー・デイズ#1

 
東京発モンタナ行き急行的ハンバーガーの良心と絶望と韃靼人の怒りと復讐

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 20歳の頃、ハンバーガーを1日に50個食べるのが日課だった。ハンバーガーを1日に50個食べつづけることでいったいどこにたどり着けるのかはわからなかったが、ハンバーガーを1日に50個食べつづけることは私の精神の強度と跳躍力と耐久性を飛躍的に高めた。クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルの『雨を見たかい?』の「雨」がナパーム弾の弾幕であると気づいたのは1日50個のハンバーガーのおかげだ。さらにはいくつかの「啓示」と「福音」も。実際、1日中咀嚼しつづけることは容易ではない。しかも、相手はジャンク・フードのチャンピオン、ハンバーガーだ。だが、私はひたすらハンバーガーを咀嚼し、飲み込み、消化しつづけた。おかげで私の体重は半年で30kg増加した。もとの体重まで戻すために要した精神力はハンバーガーを1日に50個食べつづけることによって培われたのだと思う。そして、いまや私の大脳辺縁系のほとんどは挽肉とバンズとピクルスとタマネギとベーコンとチーズに占領されてしまった。かえすがえすもよろこばしいことだ。ハンバーガー天国に行ける日も近い。ハンバーガー天国では日がな一日ハンバーガーを食べていることができる。ダイエットだのコレステロールだの中性脂肪だののことを心配する必要がない。ハンバーガー天国ではあらゆることがハンバーガーを中心にして成り立っているのだ。毎日がハンバーガー・デイズというわけだ。


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 その頃足繁く通っていたハンバーガー屋は早稲田鶴巻町の「SEASON」だ。常連客は「SEASON」をなぜか「シーソン」と呼んでいた。なぜ「シーズン」ではなくて「シーソン」なのか、店員で一番人気のアッコちゃんに尋ねたことがある。アッコちゃんの答えはこうだ。
「みんなバカだからよ。バカでなきゃシーズンをシーソンって言ったりしないし、第一、ハンバーガーなんて食べるわけない」
「アッコちゃんはバカとバカでない奴をどうやって判別してるの?」
「そうね。バカはバカのにおいがするのよ。だからすぐにわかる。バカのにおいがする奴はみんなハンバーガーを食べる。これはハンバーガーが19世紀末にコネチカット州ニューヘイヴンのルイス食堂で誕生したときから変わらないのよ。わかる?」
「それじゃあハンバーグ・ステーキを食べる奴は?」
「ハンバーグ・ステーキを食べるひとはみんなインテリゲンチャよ。おぼえといて!」
「タルタル・ステーキは?」
「あなた、あたしをからかってるつもり?」
「怒ったの?」
「どっちだと思う?」
「そうだな。ちょっと怒ってる」
「ものすごく怒ってるわよ。妻を寝取られた韃靼人の怒りに匹敵するくらいよ」


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 アッコちゃんは早稲田の文学部の2年生で、放送研究会に所属していた。「100万人の妹」を自称するだけあってキュートなうえになかなかの美人だった。私がアッコちゃんに恋心のごときものを抱きはじめ、ハンバーガーを食べなくなったのとほぼ同時期にアッコちゃんは消滅した。それはまさしく消滅と呼ぶにふさわしい。なにしろ、真夜中、早稲田通りのアスファルトにチョークでモンタナ急行の寝台車輌を描き、それに飛び乗って消えたのだ。いまでも、ハンバーガーをかじる直前、アッコちゃんのシマリスのような笑顔があざやかに眼に浮かぶ。
 アッコちゃんはいまでもハンバーガーを食べる人々をバカ呼ばわりしているんだろうか? それとも、ハンバーガーどころか世界そのものをバカ呼ばわりしているんだろうか? できうれば空気のきれいな郊外の街でアメリカの鱒釣り師くらい誠実なハンバーガー・ショップを経営していてほしい。そして、マイケル・マクドナルドの数倍良心的で心のこもった笑顔をふりまいていてほしい。
 きょうの昼食は30年ぶりにシーソンのハンバーガーにしよう。もちろん、50個は食べない。20個だ。


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背景音:Neil Hamburger - Why did the beef cross the road ?




     
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