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夏への階梯#1 2000トンの雨が降れば

 
 七里ガ浜駐車場レフト・サイドで2000トンの雨に打たれるまであと177日と14時間43分

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 第2京浜をゆく。多摩川を越え、川崎を過ぎ、ルート16に乗り換え、ひたすら漕ぐ。 横浜のサウス・エリアをかすめ、横須賀へ。そして、三浦半島へ。三崎港では地魚に舌鼓を打つ。三浦半島のビーチ・サイドをトレースし、葉山、逗子の海岸線を左手に見ながら、海の輝きと潮の匂いに身をまかせる。極上のオフショア・タイムが、ただ過ぎてゆく。
 オーケイ。すべては順調だ。もうすぐ夏に追いつける。あとひと漕ぎ。いや、ふた漕ぎ。トンネルの手前、勾配がややきつくなるところでフロント・ギアはアウターからインナーへ。トンネルに入ったら再びフロント・ギアはアウターへ。ジェット・コースター気分で駆け抜けよう。前方に光が溢れはじめたら、さらに加速しよう。
 トンネルを抜け、S字カーブをクリアすれば、そこは鎌倉、材木座海岸だ。右に連なるレスト・ハウス。波しぶきに煙る小動岬。遠くで揺れる江ノ島の島影。胸の鼓動はさらに高まる。潮の香りが強くなる。
 滑川の三叉路から由比ヶ浜のゆるやかな左カーヴにさしかかればさらに精神は疾走する。やがて、腰越のキュートな入江が見えてくる。稲村ヶ崎をすぎるときには古えの益荒男どもに思いを馳せ、伝説の水曜日の大波にウィンクだ。「僕らの夏」の出発地、七里ガ浜駐車場レフト・サイドで風に吹かれる前に向かいのセブンーイレブンでよく冷えたビールを調達する。プル・リングを引き上げ、湘南の海に1年ぶりの挨拶をする。
「やあ。ひさしぶり」
 それから、iPodのヴォリュームを少しだけ上げる。出発のときからずっとリピートで聴いていた山下達郎の『2000トンの雨』。1985年夏のテーマ・ソングだ。山下達郎の顔面状況はどうしようもないけれども、いっさいの救済案を台無しにしてしまうけれども、僕らの1985年夏の日々に「2000トンの雨」を降らせたという一点において、彼は1985年夏の日々に一筋の光を垣間見せた。
 人生は緩慢で気色悪く、頻繁に脱輪し、あちこちに落とし穴が息をひそめていて、おまけに報酬はたかがしれている。それでも、そうであっても、いつか2000トンの雨がすべてを洗い流す。かくして、2013年の僕らの夏、湘南のすてきな一日が始まる。

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「8月31日で夏休みは終わるんだよ。終わりがあるから楽しいんじゃん?」とビートニク・ガールは言った。そう言ったすぐあとにビートニク・ガールの子鹿のような瞳からこぼれ落ちた涙のゆくえを見届けぬまま、僕は1985年8月31日の七里ガ浜駐車場に背を向けた。あれから28年が経つ。われわれの恋が終わったのは、ボタンをかけちがえたからじゃない。風の中に答えがなかったからでもない。もちろん、25メートル・プール1杯分のビールを飲みほせなかったからでもない。秋の気配を感じて、傷つけたり傷つけられたりすることに耐えられなくなったからだ。
 すべての物事には始まりがあって終わりがあることはとうの昔に知っていたが、1985年の夏休みだけは終わってほしくなかった。しかし、僕はどうしても1985年の夏休みを終わらせなければならなかったんだ。そうしなければ、次の扉を押すことはかなわなかった。
 扉は開いた。扉の向こう側には数えきれないほどのボタンがあり、いろんな匂いのする風が吹き、世界中の酒場が僕を待っていた。僕は注意深く、可能なかぎりのボタンをかけ、風のゆくえを見届け、そして、浴びるほど、そうだ、浴びるほど酒を飲んだ。だが、結局、1985年の夏休みは終わっていなかった。いや、これは正確ではない。1985年の夏休みは終わっていたが、僕がそのことを認めたくなかっただけなのだということにやっと気づいた。僕にしては上出来じゃないか。
 28年を経て、この夏、1985年の夏休みはようやく終わりを告げる。7月26日、七里ガ浜駐車場で。強い南風が吹きつけるレフト・サイドで。晴れたらいい。ビールがよく冷えていたらいい。アール・クルーの『Long Ago and Far Away』が聴こえたらいい。そして、最後には2000トンの雨が降ったらいい。夏に本当のさよならを言う日のために。

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