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見上げてごらん夜の星を

 
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 冬は星がきれいにみえる。空気が澄むからだ。空気が澄んで、冴えわたる夜空を見上げることは吾輩と吾輩の人生の同行者である虹子との欠かすことのできない冬のイベントである。
 東向きの窓に秋のころよりも元気をうしなった月が物静かにでて、やがて夜空をめぐり、窓から消え去るまでの数時間、吾輩と虹子はソファに足をもたせかけ、大の字になって夜空を仰ぎみる。そして、iTunesのライブラリにある楽曲の中から、「星」「夜」「月」「STAR」「NIGHT」「MOON」をキーワードにしてリスト化したものをエンドレスでかける。
『Star Dust』『Fly Me To The Moon』『星の海』『見上げてごらん夜の星を』『空に星があるように』『星の流れに』『ジャコビニ彗星の日』『Stairway To The Stars』『'Round About Midnight』『A Night in Tunisia』『アカサカ・ムーン』『Night Lights』『Drunk On The Moon』『Harvest Moon』『Moonlight Serenade』『Moonlight in Vermont』『Rainy Night in Georgia』『星のかけら』『Stella By Starlight』『乙女座宮』そして『星に願いを』。
 思いつくままにあげても、これだけの星と夜と月にかかわる楽曲がある。いずれも名曲、スタンダードと言われるものだ。およそ、星、夜、月といったようなありふれたテーマの楽曲には名作が多い。世界や人生や海や空や朝や風をテーマとしたものもおなじである。スキーター・ディヴィスの『The End of The World』しかり、エディット・ピアフの『バラ色の人生』しかり、ルイ・アームストロングの『この素晴らしき世界』しかり、はしだのりひこ&シューベルツの『風』しかりだ。
 吾輩は種々の事情で娘とすごす時間がほとんどなかった。娘と共有することのできた数少ない体験のひとつひとつは、時のヤスリに削られながら、いずれも宝石のように輝いている。なかでもとりわけて吾輩の心の中にひときわまばゆい、一等星のごとき輝きを放っているのが、遠い冬の夜、娘といっしょに天体望遠鏡をかわるがわるのぞきこみながら夜空を、星々をみたことだ。
 最近、娘が吾輩への「卒業論文」がわりに提出してきたテクストには、そのときのことが美しく、冬の空気のような凛とした文体でつづられていた。そのような「思い出」をもっと多くつくることができたらというのは贅沢な話で、内心、忸怩たるものがありながら、そうそううまくことは運ばないのもまた、ひとの世の常である。HAPPY ENDやFINが都合よく用意されていることなどないのだ。しかし、であるからこそ、自分にとっての「大事なだれかさん」との思い出づくりに時間、手間ひま、工夫をこらすことは大切だろう。いっしょに夜空を見上げて星をみるのにコストはかからないのだ。これほどコストパフォーマンスのいいライヴはそうそう経験できない。
 さて、冬も大本番だ。今宵、部屋のあかりをおとし、カーテンをあけ、大の字に寝転がって、「星と夜と月」の音楽を聴きながら思うぞんぶん夜空を見上げよう。天気が悪いときには、眼をとじ、心の中にある星や月や夜をみつめよう。そして、星のかけらのステージでステップを踏み、星の海で泳ぎ、愛しいひとを思い、月あかりの夜想曲を聴きながら「地球見酒(テラミザケ)」とシャレこんで酔いどれ、もし、きょうが雨なら、あしたは晴れて虹がかかるようにお星さまにお願いをしよう。人生やら世界やら暮らしやらがいくぶんか、ほんのりと色づくはずである。






     
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