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あえて「メン殺し」の汚名を着て #1

 
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 思えば多くの麺どもを殺す人生だった。記憶に残る初めての麺は鍋焼きうどん。生物学上の父親に連れていかれた横浜マリンタワー近くの蕎麦屋で食べた。ちょうど今頃、小学校に上がる直前の真冬だった。
 吾輩は見た目はこどもでも中身はすでにおとなだった。人間や世界を観察、計測することが生きているうえで数少ないたのしみのひとつだった。人間や世界についての「答え」らしきものもすでにみつけていた。すべてはばかばかしいのだという「答え」を。
 その蕎麦屋で鍋焼きうどんは一番値段が高かった。一番高いものを頼めば生物学上の父親に対する日頃の鬱憤を晴らせるように思えた。熱かった。お麩が特に熱かった。味などしなかった。味などするはずもない。目の前にいるのは吾輩が世界で一番憎んでいる相手なのだから。覚えたての「作り笑い」を見せながら食べた。唇と舌を少しやけどした。生物学上の父親はもり蕎麦に日本酒をかけて食べていた。青々とした髭の跡が妙に生々しくてどきどきしたことをおぼえている。
 生物学上の父親は年に一度か二度やってきては吾輩をあちこち連れ出した。生物学上の父親はいつも眉間にしわを寄せていた。いつも苛立っているように見えた。実際、苛立っていたんだろう。人間や世界に対して。吾輩もおなじような気分をずっと抱えつづけながら生きている。血は争えぬものだ。
 生物学上の父親は吾輩を見ぬままくぐもったような声であれこれと質問を浴びせてきた。どうでもいいようなことばかりだった。そうとでもしなければ間がもてぬとでも思ったか。まあ、そういうことだろう。
「勉強はどうだ?」と生物学上の父親がたずねた。
「小学校で勉強することは終わりました」
「ふん。やるじゃないか。なにが一番おもしろい?」
「この世界に本当におもしろいことなんかあるんですか?」
「さあな。おれにはわからない」
「あなたがわからないことをわたしがわかるとは思えませんね」
「生意気なやつだ」
「お褒めの言葉として受け取っておきます」
 生物学上の父親は押し殺したような笑い声をあげ、酒を追加で注文した。鍋焼きうどんの湯気の向こう側で、久しく見ることのなかった生物学上の父親のやや歪んだ笑顔が揺れていた。




     
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