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グレン・グールドがアイルトン・セナに見えた日

 
GlennGould1955.jpg

 新しい年の始まりのお祭り騒ぎどんちゃん騒ぎにも飽きて、酒ぐれ酔いつぶれたスットコドッコイの客人どもを居間に残し、吾輩はわが穴蔵、「知の胎内」へと逃げ込んだ。そして、グレン・グールドの『ゴルトベルク変奏曲』の1955年盤と1981年盤を交互に聴きはじめた。1955年盤の「ARIA」のあとは1981年盤の「ARIA」、1955年盤の「VARIATION30」のあとは1981年盤の「VARIATION30」というふうに。このような聴き方はいまに始まったことではないが、いまだに「結論」は出ていない。
 結論? そうだ。結論だ。「グレン・グールドは1955年から1981年の26年間に進化したのか?」という問いに対する結論。よく1955年盤と1981年盤のどちらの『ゴルトベルク』が好きか、あるいはいいかすぐれているかについての議論だか能書きだかを見聞きするが、好きかどうかはひとそれぞれだし、いいわるいも個々人の趣味嗜好だし、どちらがすぐれているかについては「どっちもすぐれているに決まってるだろうが!」というのが吾輩の考えである。吾輩が問題として考えているのは大巨人大魔神のJ.S. バッハ(実際、バッハは身長2メートルを超える大男である)と対峙しつつ、26年のあいだに『平均律クラヴィーア』をものし、ボイジャーに乗って宇宙を旅し、宇宙人ちゃんと会ったときには挨拶がわりに『プレリュードとフーガ ハ長調 BWV870』をぶちかましたグレン・グールドが「時間」という厄介者をどのように乗りこなしたかという点だ。

Goldberg-Variationen_SCORE640PXSEPIA2.jpg

 結局、またしても「結論」は出ない。才気煥発、溌剌とした1955年の若きグレン・グールドと、死の前年、円熟の境地と諦念にも似た静寂が支配する1981年のグレン・グールド。出だししょっぱなのアリアのテンポからしてまったくの別物だ。
 1981年盤の最後のアリア。総演奏時間の43分50秒あたりでグレン・グールドはわずかにミスタッチを犯す。たった一カ所、ワンタッチのミス。それまで、バッハを自家薬籠中のものとして気負いも衒いもなく思うままに演奏していながらほぼ完成されたかたちで吾輩を不眠の不快から解放し、心地よい微睡みのとば口にまで導いたグレン・グールドがミス。わかってはいてもカチンとくる。コチンのレベルではない。カチンだ。ポコチンがカチンカチンは遠い昔々の大昔だ。しかし、そのあとがすごい。ミスタッチからあとの3分あまりのグレン・グールドはまさに神がかりとしか言いようのないパフォーマンスをみせる。あの3分間のためだけに1981年盤を手に入れる価値があるとさえ思える。
 そして、部屋の壁のポスター群、おどけて舌を出すアインシュタイン先生と『カサブランカ』のハンフリー・ボガートと『LEON』のジャン・レノと『GRAND BLEU』のジャン・レノとモンゴルの奥地で巨大イワナを釣りあげて喜色満面の開高健と1975年1月24日、「ケルンの奇蹟」のときのアフロ・ヘアのキース・ジャレットと母国ブラジルGPで初優勝して感涙にむせぶアイルトン・セナに囲まれて、少し居心地が悪そうな若き日のグレン・グールドのポートレートに眼をやる。ん? 似ている。セナとグールド。なぜいままで気づかなかったんだろうな。セナほどではないがグールドも死ぬのが早すぎた。だれもかれもが一様に「時間」と格闘し、生き急いだ者たちだが、セナとグールドはその意味がちがう。
 1955年のグレン・グールドは生き急いでいたのではないのか? そうか。そういうことか。1992年、モナコGPにおけるアイルトン・セナ・ダ・シルバの激走を実況なし無音で見ながら、グレン・グールドの『ゴルトベルク変奏曲』1955年盤を聴いてみることにしよう。「結論」とまではいかなくても、なにかしらの「答え」がみつかるかもしれない。
 さて、今年も悠々として急ぐことにしよう。残された時間はそれほど多くない。読むべき本、聴くべき音楽、観るべき映画、考えるべきこと、書いておくべきことはまだ山のようにある。観光客の客足が絶えて久しい寂れた観光地の土産物屋で売っている絵葉書など眺めている暇はない。

AYLTONSENNA640PX.jpg




     
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