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ラカンの鏡

 
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 浅田彰が『構造と力/記号論を超えて』という名の哲学カタログを大売り出ししてから、すでに30年の歳月が経とうとしている。当時の「知」の大安売りに便乗した者たちは今どうしているのか? へっぽこスカタン瀕死頓死寸前の朝日ジャーナルの部数拡大戦術にうまうまと乗せられて軽薄表層上っ面おっちょこちょいにも「ニュー・アカデミズム(ニュー・アカ)」なる珍妙奇天烈な「立場」「立ち位置」を標榜していたボンクラポンコツどもは? A( )Cの代表格である中沢新一は相も変わらず施錠済み密室状態の研究室で脳味噌のしわの足りないJDのうなじに息を吹きかけ、尻を撫で、追いかけまわしているのか? あまたの空間プロデューサーは? 往年の新人類たちも、いまや中年もしくは老人初期の真っ只中を生きている。

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 ジャック・ラカン先生が死んだとき吾輩は22歳だった。ラカン先生のセミネールはいつもハラハラドキドキの連続だった。吾輩がラカン先生のセミネールに初めて参加した頃、セミネールはサンタンヌ病院の消毒液と糞尿とナポリタン・マスチフの肉球の匂いのする部屋で行われていた。ジャン・イポリットやユリア・クリステヴァやルイ・アルチュセールを何度かみかけた。

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 ユリア・クリステヴァは当時から胡散臭かった。インチキとまやかしと色仕掛けのにおいがした。鼻持ちならなさは野村沙知代豚クラス。嘘臭さは軽々と辻元清美を凌駕している。辻元清美が「真実の口」の番人にさえ思えるほどである。あんなろくでもない女がもてはやされる時代がかつてあったのだ。雇われ社長のポンコツ成田兄弟がへっぴり腰でやっていた麻布十番の「マハラジャ」VIP ROOMに出入りする能天気な坊やたちまでもが「刷り込み」だの「フラクタル」だの「パラダイム・シフト」だのといった言葉を誇らしげに口にしていた。『構造と力/記号論を超えて』とともに、『逃走論/スキゾ・キッズの冒険』を片手にナンパすることがいけしゃあしゃあと行われていた。ふざけた時代があったものだ。
 総じて言えば、80年代は「スカ」だったということにでもなるのだろうが、同時にそれは、のちの「失われた十年」を生き抜くための準備運動の時代であったようにも思える。あの「泡の時代」「バブル・フェスティバル」の意義は、現代ニッポンや現代ニッポン人や現代ニッポン文化がどこまでおめでたいかを知り、計測する絶好の機会になったということにつきる。ニッポンおよびニッポン人ならびにニッポン文化の底の浅さとおめでたさはさらに拍車がかかったというのが吾輩の感想だ。大震災、原発事故以後、それはさらに顕著になり、恥も外聞もなくなり、露わになり、あからさまになった。「絆」だの「友愛」だのが実現の道筋なき空虚な言説によって語られ、そのいっぽうで、「オサレなカフェ」やら「午後のお茶の会」やら「女子会」やらの極楽とんぼタームがふんぞりかえりながら臆面のひとかけらすらもなく大手をふって街を闊歩している。驚くべきことにそれらの事態に喝采を送るおっちょこちょいのお追従者、有象無象が山のようにいるという事態、現実。有終の美のかけらもなくニッポンは終わるという次第でもあるのか?
 さて、ラカン先生のそばにはいつも鏡が置いてあった。大小様々。デザインも色々。中国の前漢時代の青銅鏡もあった。あれは本物だったのか? 本物だとしたらラカン先生はなにかしらの犯罪に与していたことになるな。もはや真相を究明することはほぼ不可能だし、究明したところでえられるものなどポンコツどもの「依存談義」ほどの価値もあるまい。

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 1980年代から90年代にかけて影響を受けた思想家、哲学者、文学者のほとんどは死んでしまった。それもたてつづけに。なしくずしに。生きているべき者や死んではいけない人が死に、とっとと死んでしまったほうがいいような輩がごまんと生き残り、いけしゃあしゃあと生き延びる。腹立たしかった。「鏡像段階」をさえ乗り越えることのできないニッポン国。「寸断された身体」のイメージ(Image morcelée du corps)の中にしか生きることができず、自分が一個の身体であることの自覚なきニッポン大衆。ラカンの鏡はこの国にはなく、あるいはあっても瞬時に木っ端みじんにされる。ラカンの鏡に自己を映したければよそを当たるしか手はあるまい。さもなくば、世界のどこであれ「午睡」「昼寝」を決め込むかだ。

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