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クリスマスのための無邪気な日々への挽歌

 

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 雪の降るクリスマス・イヴのことだ。昔、ずいぶんと悲しい思いをさせたかつての恋人と町外れの食料品店で出くわした。彼女は冷凍食品のコーナーの前に立ち、品定めに夢中で私に気づかなかった。私はそっと彼女のうしろに近づいて彼女が着ている赤いマックのネルシャツの袖を引っ張った。初めのうち、彼女は私がだれかわからなかった。それでも、私が彼女と一緒だった頃にみせたおどけたいくつかの表情をすると彼女は目を大きく見開いて両腕をひろげ、とても強い力でハグしてくれた。勢いあまって彼女のポケットから財布が飛び出すほどだった。私と彼女は顔を見合わせ、涙が出るくらい大笑いした。
 私と彼女は昔のように一緒に買い物をつづけた。買い物がすみ、やはり、昔のように二人並んでレジまで買ったものを運んだ。無愛想な若い店員によって品物はおなじ袋に詰めこまれた。私と彼女は立ちすくんでしまった。店員に「買ったものは別々にしてくれ」とはどうしても言えなかった。思いがけない事態に私も彼女も軽いジョークで切り抜けることさえできないくらい動揺した。
 支払いをすませてから袋を1枚もらい、レジの横の台で品物をわけた。軽く飲みにいこうとしたがやっている飲み屋はみつからず、仕方なく酒屋で6本パックのバドワイザーを買い、彼女の白いカローラの中で飲んだ。私と彼女は互いにまだ無邪気だった日々と現在とに乾杯した。もちろん、思いがけない二人の再会にも。乾杯はしたが気持ちはどこかうつろだった。そんな気持ちをなんとかしたかったがいい方法がどうしてもみつからなかった。それは彼女もおなじだったと思う。
「ひとまわり以上も年上の建築家と結婚したのよ」と彼女は突然言った。そして、「そのひと、わたしをすごく大事にしてくれるの」とつけ加えた。彼女はたぶん、その建築家を愛しているとも言いたかったのだろうけど、言わなかった。嘘をつきたくなかったのだと思う。大事なら冷たい雪の降るクリスマス・イヴに彼女をひとりで買い物になんか行かせるわけがない。しかも、夜ふけに。
「時間はきみにはやさしかったんだね」と私は言った。「きみの青みがかった瞳の色はさらに深くなってる。すばらしい色だ」
 しかし、本当のことを言えば私には彼女のことがほとんどわからなかった。幸せなのか信頼と慈しみに包まれているのか。彼女の心の中にあるものが感謝の念なのか猜疑心なのか。
「あなたのこと、たまにタワー・レコードで見かけるわ。昔とおんなじ。お目当てのアルバムを探すのに夢中でまわりのことはなにひとつ目に入ってなかった。仕事はうまくいっているの?」
「音楽はいまでも大好きだし、素晴らしいけど、生きつづけることは地獄の責苦のように感じることもあるよ」
 私と彼女は再びまだ無邪気だった日々と現在と再会に乾杯した。そして、われわれのあいだに横たわる途方もなく長い時間にも。おしゃべりに夢中になるあまり、私と彼女は決して取りもどすことのできない遠い日々を思いだし、過ぎ去ったいくつもの季節をなつかしんだ。ビールがなくなり、しゃべりすぎたせいで口は疲れ果て、話すこともなくなって私は彼女に別れを告げた。彼女はとてもやさしい笑顔をみせ、ハグし、そっとキスしてくれた。彼女の車からおり、白いカローラのテールライトが見えなくなるまで見送った。ほんの一瞬、無邪気だった頃の気持ちがよみがえりかけた。そして、なつかしい痛みを感じた。いつしか、雪は雨にかわっていた。





*Daniel Grayling "Dan" Fogelberg (August 13, 1951 – December 16, 2007)。彼が死んで世界からはいくぶんかの「やさしさ」が失われた。12月でちょうど5年になる。曲の最後にソプラノ・サックスで『Auld Lang Syne(蛍の光)』を演奏しているのはやはり2007年に死んだMichael Brecker(March 29, 1949 – January 13, 2007)だ。無邪気だった頃の私になにかしらの力を与えてくれたふたつの魂は奇しくもおなじ年に死んだ。世界はそのようにしてますますつまらなくなっていくんだろう。仕方ない。そんなめぐり合わせなんだ。配られたカードを交換することはできないし、どんな「最終解答」が待ち受けているとしても、このままゲームをつづけるしかない。ゲームからおりるほかに手はあるんだろうか?




     
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