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鳥肌ことば/サブイボことば/GOOSE BUMPS WORDS

 
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 すごい、てゆーか、みたいな、じゃないですか、語尾上げ、~なんですけどぉ、聞いた話ですがetc
 15年ほども前から「鳥肌ことば/サブイボことば/GOOSE BUMPS WORDS」と呼んでいる一群の言葉がある。それらはもっぱら「話し言葉」の中にある。クールにスマートにファニーにファンキーにインテレクチュアルにビートきかして言葉が乱れるのは大歓迎だが、気色悪いのや愚かなのは願い下げである。日本放送協会アナウンス室のひとびとが話す言葉にしたところで、日本古語からすれば乱れに乱れているわけであるし、その混乱の様相もまた「時代」のうねりの象徴であることを思えば、まんざら否定すべきでもないように思える。だが、その混乱の中にあってさえ「気色の悪いことば」はある。その代表が表題に掲げた「すごい」「てゆーか」「みたいな」「じゃないですか」「語尾上げ」「~なんですけどぉ」、そして「聞いた話ですが」だ。

 言語はパズルのごとき側面を持っていて、各品詞の組み合わせで成り立つ。名文、悪文の分かれめは、おおむね順列組み合わせの如何にかかっているとも言える。用言止めと体言止め、どの接続詞をもってくるか、どの助詞を使うか、「だ」にするか「ある」にするか「じゃん」にするか「~っての!」にするか。修辞学上の用語で言えば、倒置法、婉曲法、迂言法、緩叙法、畳語法、押韻、同語反復、撞着語法、擬態法、列叙法、逆説、照応、暗喩、隠喩、直喩、換喩、声喩等々。「技術」としての言語表現はこれらの組み合わせ方、用い方によってその良し悪しが決まるが、「鳥肌ことば」はこれらのいずれともかかわりのないところで気色悪いのだ。
 まず、「すごい」。「すごい」は形容詞である。形容詞が修飾することのできるのは名詞だけだ。「すごい速さ」とは言いえても、「すごい速く」とは言えない。「速く」という副詞を修飾したければ「すごく」「おそろしく」「すさまじく」などの副詞を用いなければならない。同様に、「すごい速い」とも言えない。「速い」を修飾したければ「すごく」をもってこなければならない。副詞は他の副詞と形容詞と動詞を修飾するからである。馬鹿テレビ局の中には発言者が正しく「すごく」と言っているのに御丁寧愚かにもテロップでわざわざ「すごい」に改悪しているところさえある。
 吾輩は形容詞と副詞の使い方でほぼその人物の人となりを判断する。スカタンやボンクラやヘッポコやナマクラはそれだけの形容詞、副詞しか使わないからだ。誤謬まみれの「すごい」を連発するひとびとのメンタリティを考えてみると、かれらは一様にみずからの発語を強調したいかに見える。その流れの中で「超○○」も登場したのだろう。もちろん、かれらの話す内容には強調すべきものはいささかも含まれてはいない。さらに言えば、かれらの話す言葉には中身がない。からっぽである。かれらの中にあるのはぼんやりとした「思い」だけだ。その「思い」の強さを伝えたいがためにかれらは「すごい」「超」を接頭語として乱発するのだろう。だが、お生憎さま。この世界にはすごいことも超越超絶なこともほとんどない。(「てか」、おまいらの話は、「すごい」「超ムカつく!」みたいな。)

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「てゆーか」は「てか」にまで変体してきている。「というか→ていうか→てゆーか→てゆっか→てゆか→てか」といった変遷の道をたどって今日に至っている。「てか」はいずれ「っか」にまで変体してゆくだろう。この鳥肌ことばを準備したのは「~って」である。「それって」「これって」「あれって」も同類と考えてよい。
 本来は「Aというよりも反Aである」「Aというよりも非Aである」の「というよりも」の部分が「てゆーか」乃至はその亜種にあてはまる。ところが、「てゆーか」乃至はその亜種は当然に語られているべき「A」の存在なしに突如として現れる。宵闇の辻に突然出現する辻斬り、刺客のように「てゆーか」乃至はその亜種は現れるのだ。これにはめまいをおぼえる。「すごい」「てゆーか」「超」は本来の機能とは離れて、接頭語、虚詞の意味あいを持ちはじめた。なんでもかんでも強調したいという自我と薄ぼんやりとした「思い」に引き裂かれながら、これらの鳥肌ことばはこれからいったい、何処へ向かおうとしているのか?
 その意味で、「みたいな」もまた薄ぼんやりとした「思い」を伝えるために出現したと言える。「~みたいな空」とか「~みたいな人」という用法ならばよい。しかし、「~みたいな」で止めるのはあきらかにまちがっている。卑怯者の言い回しにほかならない。吾輩の記憶によれば、「~みたいな」を得意げに使いはじめたのはトンネルズの石橋貴明というヘッポコボンクラスカタンである。おそらくは秋元康あたりのあざとい輩一味のあいだで楽屋話的不潔さのうちに語られていたものがついつい露出したのだろう。

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 困惑するのは「じゃないですか」である。初対面にして「私は一平ちゃんの屋台の焼きそばが好きじゃないですか」とじゃないですかちゃんはのたまうのだ。語られたことの事情経緯背景についてまったく知らぬ吾輩に「じゃないですか」と訊かれても答えようがない。答えようがないのはじゃないですかちゃんもわかっているはずなのに「じゃないですか」という。これには肯定も否定もできない。お返しに「あなたは一平ちゃんの屋台の焼きそばが大嫌いだ!」と言ってやる。言われた当の本人はあからさまに混乱する。ざまあみろである。「じゃないですか」についてはさらに観察と分析をつづけようと思う。そして、いまや老若男女を問わずのさばっているのが「語尾上げ」だ。肯定文の語尾を上げると疑問文になる。だが、ここでいう「語尾上げ」は疑問文とはあきらかに異なる文脈の中で行われている。語尾上げさんはどこか得意げに「語尾上げ」をしている。語尾をあげることがファッショナブルだとでも考えているのだろうか?
 はっきり言ってしまおう。「語尾上げ」はやめるべきだ。バカにみえるだけである。ついでに言っておくと、ファッショナブルなことはぜんぜんかっこよくない。かっこいいというのはなんてかっこわるいんだろうと言った詩人がいたことを想起しなければならない。
「聞いた話ですが」といった類いの前置きがある時点で吾輩はその話をスルーする。聴いているふりすらしない。どこのだれともわからぬ者によって話された話に耳を傾けるほど吾輩はお人好しではない。「聞いた話」など聞きたくもない。同様に「誰それが書いていますが」だの「読んだ話ですが」にもまったく興味がない。本に書いてあることなら書名と著者名の情報を正確に伝えるだけでよい。引用は簡潔にシャープに。誤字脱字言いまちがいなく。
 吾輩が聞きたいのは生の、手づかみの、赤むけの、リアリティのある話だ。直接、「見た」「嗅いだ」「喰った」「聴いた」「触った」「入れた」「出した」「やった」「殴った」「殴られた」「考えた」という話には全存在をかけて向き合う。人生も世界も直接の経験、実体験からできあがっている。その余のことどもはすべてたわ言にすぎない。
 芥川龍之介は「とても」の濫用に対して不快感をあらわにしたと言われる。「とても」は本来、「とてもかても」といった用いられ方をするのであって、「非常に」「おおいに」「すごく」とは異なるというのが芥川の言い分である。「とても大きい」という用法は誤りであるというのだ。「僕がはじめて彼に会ったのは」と言えずに「僕のはじめて彼に会ったのは」と言わざるをえなかった芥川の言葉へのナイーヴさはとてもかても参考になる。われわれは「ことば」に対してもっとナイーヴにならなければならない。ナイーヴな街にあるナイーヴな肉屋のナイーヴなロースハムが売り切れていようといまいとだ。
 
2000年の正月、NHKで「史上最大の発明」について各界各層の意見を集めた番組をやっていた。ダントツの一位は「言葉/文字」だった。予想どおりではあったがその「史上最大の発明」が蔑ろにされていることを思い、とてもかてもヤバめに複雑な気分ではあった。
「女子会」だの「オサレ」だの「○○め、●●げ(ヤバめ、ヨサげ)」「ムズい」だの「ウザい」だの「肉食系/草食系」だのについては言わずもがな、語るに落ちずということでもはや言及しない。これ以上はヤバめだし、このあたりでやめたほうがヨサげだ。ウザくてムズい話になってきたのでこのあたりで打ち止めみたいな。

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