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はやく家に帰りたい。

 
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 ビートルズが解散して兄公どもが嘆き、サイモン&ガーファンクルに慰めてもらった時代がかつてたしかにあった。そのような時代のまっただ中に兄公はなんらの前触れもなく行方をくらました。40年近い歳月を経て、2008年のクリスマス目前、兄公は吾輩の前に姿を現した。やはり、なんらの前触れもなく。吾輩の誕生日祝いにとラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル』の稀覯本を携えて。

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 いくつかある音楽に関する「原風景」のうち、こどもから少年へのとば口に立っていた頃のものは、ビートルズのメンバー4人の顔が配置された『LET IT BE』とサイモン&ガーファンクルの『Parsley, Sage, Rosemary and Thyme』の2枚のジャケットが無造作に置かれた兄公の机である。そのかたわらには吉本隆明の『共同幻想論』とJ.P. サルトルの『存在と無』とアラン・ロブ=グリエの『Dans le Labyrinthe(迷宮のただ中にて)』『Projet Pour une Révolution à New York(ニューヨークの革命計画)』が、これもやはり無造作に、というよりも放り投げてある。いま思えば、兄公もいっぱしの哲学青年もしくは文学青年を気取っていたことがわかるが、当時の兄公はいつも眉間に皺をよせ、深い陰翳が顔に宿っていた。

SARTRE01LARGE.jpeg

 うつむき加減にぼそぼそと話す兄公の姿を思いだす。私以外の一族すべてが兄公におびえていた。兄公は「恐怖の王」として君臨し、何者の干渉も介入もゆるさなかった。「恐怖の王」は私にだけはやさしく、あたたかだった。その兄公もいまでは視力を失い、闇の世界の住人である。彼がいま聴いているのは「沈黙の響き」でもあるか。美しいものだけを見たいから目を閉じたのか? ブックエンドがわりの「魚のしるし」はなぜ失われたのか?
 当時、兄公が繰りかえし繰りかえし聴いていたのが、サイモン&ガーファンクルの『Parsley, Sage, Rosemary and Thyme』に入っている『Homeward Bound』だった。繰りかえし繰りかえし『Homeward Bound』を聴いていた兄公のそのときの気持ちを本人に直接たずねてみたい気もするが、ひとにはなにかしら他者に触れられたくない心の闇がある。そっとしておこうと思う。「沈黙の響き」が彼を慰め、癒すことを祈りながら。

 兄公はどこに行っていたんだろう?
 兄公はどこに帰りたかったんだろう?
 兄公はなにを考えていたんだろう?
 兄公は闇の中になにをみているんだろう?

 そんなことを考えながら、今夜は『Homeward Bound』を繰りかえし繰りかえし聴こうと思う。聴いているうちに本当の「帰るべき場所」がみつかるかもしれない。そうあってほしい。

SIMONANDGARFUNKLE01LARGE.jpg
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