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師歌/皿回し師のうた(沈黙の青い歌)

 「ほんとのことを言うよ」と癒し系天然ブルースマンは突然スカイプ・チャットで1ラインの文字列を送ってよこした。「ん?」「前にあんたがおれにたずねただろ。なんでトークをやらないんだって。あのことだよ」 癒し系天然ブルースマンはインターネット・ラジオで「Blues Train」という番組をオンエアしていて、最初から最後までずっとトークなしでかたくなにブルースだけを流しつづける皿まわし職人、DJである。「ブルースはジ...

わたくしの読書遍歴

 黎明期    サルからヒトへ 偶然半分、自分の意志半分で5歳の秋にC・ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』を読む。中野好夫の翻訳だった。おそろしく長い話なのだが一週間かそこらで読み終えたのではないかと思う。読んでいるさなか、二度ばかり大泣きした記憶がある。そのあと、立てつづけにディケンズものを読んだ。『オリバー・ツイスト』『二都物語』『大いなる遺産』『クリスマス・カロル』などである。ディケ...

師歌/釣り師のうた

  黒塗りのマイバッハが滑るようにやってきて停まった。ドアがあき、体格のいい男二人が機敏な動きで飛びだしてくる。鋭い視線を私のほうにちらとよこす。白刃の切っ先を突きつけられた気分だ。 伝説の釣り師はゆっくりと車の中から出てきた。濃紺のペンシル・ストライプのダブル・ブレステッド・スーツ、濃紺のボルサリーノ、上等のワニ皮の靴はピカピカに磨き上げられている。知らない者がみれば、その筋の親分である。右眼の...

ゴンザレスの南、チチリアーノの西。マドレーヌと紅茶。あるいは「病としての過剰」もしくはハーブ・エリスの不思議な三角形

  O.ヘンリーの書斎で(382) あらかじめ失われた庭を求めて オハイオ・ペニテンシャリーことウィリアム・シドニー・ポーターのこともイゴール・ゴンザレス・ガルディアーノのこともしばし忘れていただきたい。「ゴンザレスの失われたファリエロ・マージ」を探す旅に出発する前にすこしだけ自分のことを記す。 私の大脳辺縁系ならびに大脳新皮質はあることをするとあることを思い出す仕組みになっている。さらにあることを思い出...

ゴンザレスの南、チチリアーノの西。あるいは RIDE ON TIME の男

  2000トンの雨の中、RIDE ON TIMEの男は不可思議グーゴル・ピーチパイ製の巨大な波を連れて夏の終わりを告げにやってきた。 休暇届の書き方の問題に端を発した私の誤解から職場を追われるはめになった。今後の展開について作戦を立てるため、雨の日の麹町小学校の放課後の音楽室で「ぼくのクラゲ弁当」による短めの昼食をとった。「ぼくのクラゲ弁当」は故障ぎみでシャープさに欠け、味気なかった。チタニウム合金の味だけが際...

天使と妖精と酔いどれのクリスマスに向けて#1

「酔いどれずにやっていられるものか」とアスファルトに吐き捨てる。東京はそうとでもしなければいられない街だ。東京には天使も妖精もいるがなかなか姿をみせない。彼らはすごく気まぐれで気分屋でわがままなうえに音や光の具合にうるさいので姿をあらわす条件がととのうことはまれだ。音と光にあふれかえっている東京は天使や妖精どもの気分を損ねつづけている。しかし、ひとたび天使や妖精どもがあらわれると人生がいくぶんか色...

ヤマシタタツローとヨシダミナコとタケウチマリヤのパイでπな危険な関係のブルース

  ヤマシタタツローとヨシダミナコとタケウチマリヤのパイでπな危険な関係のブルース ヨシダミナコが好きだ。世界で通用する日本のヴォイス・パフォーマー、音楽家はヨシダミナコだけだとすら考えていた時期もある。忘れかけていた季節を思い出させてくれるのはいつもヨシダミナコだった。音源は残らず持っている。直筆の「御礼状」だって3通ある。へたくそな字だ。独特な字、風変わりな字、クセのある字、一度見たら忘れない字...

細胞の魚こと利己的虚数魚 i = CELLFISHまたはSELFISHもしくはPoisson D'Avril

 細胞の魚こと利己的虚数魚 i = CELLFISHまたはSELFISHもしくはPoisson D'Avril が世界のありとあらゆる事態・事物・事象・現象に対して逆立しはじめたのは日曜の朝からである。 流血の日曜日の朝。細胞の魚こと利己的虚数魚 i = CELLFISHまたはSELFISHもしくはPoisson D'Avril は複素数魚と天然純朴偽装魚の集合的劣後債権的劣等無意識(Subprime Lonely)の崩壊に端を発する甘えの構造主義魚どものあさましい茶飲み話をその鋭...

ニザン、バラ色の人生、うしろ姿のしぐれてゆくか

  2012年秋。ニザンはしたたかに酔っぱらい、足元もおぼつかない風情でローソンの前にたたずんでいた。ニザンがついにやってきたのだ。「酒ある?」 ニザンは酒臭い息で言った。「あるよ」と吾輩がぶっきら棒に答えるとニザンはこっぴどく叱られたミニチュア・セントバーナードの仔犬みたいな眼をした。「御機嫌がお悪いんですか? 怒っていらっしゃるんですか?」「馬鹿野郎! いきなり丁寧語になってんじゃねえよ! ニュート...

虹のコヨーテ#1

  いにしえの昔、ディネの男たちとアステカの民はコヨーテを「歌う犬」と呼び、いたずら好きの神として敬った。彼らはコヨーテが太陽と死と雷とたばこをもたらしたと信じて疑わなかった。 Who is the Coyote? I already answered that question.  I am the Aimless Coyote.  Why am I aimless?  Beats me.  If I had a coherent answer,  I wouldn't be aimless, now would I?  Where?  Somewhere in JAPAN  Coyotes l...

KとC/辞書に載っていることと辞書に載っていないこと

 わたしはビートニク・ガール。ビートきかせて GO! GO! GO!「BEATNIC ってどういう意味ですか? 辞書に載ってませんでした。(^-^)」 そんなメッセージが縁もゆかりもないひとから来た。いきなりムカついた。辞書に載ってないからなに? 最後の顔文字気持ち悪いし。プロフィールみたら、1947年生まれのおじいちゃん。「多摩川のほとりで鍼灸治療をやっています。五行歌、バードウォッチング、写真などを楽しんでいます。どうぞよろ...

McIntosh MC275と『Memories of You』とビートニク・ガール

  29歳になる春、奇妙でビートのきいたとびきりの恋がはじまった。恋の相手はビートニク・ガール。2歳年上だった。「恐縮です」と言って現れたビートニク・ガールは、初登場以後、私の前から忽然と姿を消すまで常に私の死角に入り込もうとする油断のならない人物であった。油断はならないがビートニク・ガールは見た目も性格もシマリスに似た愛すべき人物でもあって、いかなる状況下にあっても無条件でデコピン8連発をやらせてく...

東京の午睡#14 『老人と海』の死、サンチャゴの憤怒

  528回目の『老人と海』を読み終えたときだった。Mac mini を起動し、メールをチェックし、何通かの返事を書き、Safariを立ち上げ、Wikipedia でメールの中にあった文言、「Judicium Difficile」を調べ、ベランダ越しに寝ぼけまなこの観音崎灯台に向かって「Ars Longa! Vita Brevis!」と大音声を発して喝を入れたのち、『アノニマス・ガーデン』のページを開いた。1通のメッセージが届いていた。「わたぢのおともたちが自さつし...

東京の午睡#13 放蕩息子の帰還/志ん生に入門かなわず明烏 あざなう縄は芝浜の 母は千代女の傾城屋

 生物学上の父親は早稲田の学生の時分、なめくじ長屋に五代目古今亭志ん生を訪ね、入門を乞うた。半日ねばったが入門はかなわなかった。これは生物学上の父親とわたくし、二人の男の人生の一番目の綾である。もし、生物学上の父親が古今亭志ん生に弟子入りを許されていれば、まちがいなくわたくしがこの世に生をうけることはなかった。 徴兵後、梅機関の特務機関員として大陸で悪逆非道のかぎりをつくし、ニューギニアのジョスン...

バラ色の人生/さらば、友よ#1

 パリの空の下、人生は流れる。 私はパリ16区の市民病院で生まれた。1958年の冬のことだ。さまざまな事情をかかえて私を身ごもった母は単身パリに渡り、私を産んだ。パリの冬はすべてが色や輝きを失い、身も心も凍る。パリの暗鬱な冬。遠い異国の地でシングル・マザーとなった母がいったいなにを思い、なにをみつめていたのか。いまとなっては知るよしもない。母の顔を間近にみ、母の眼をみつめ、母の小さな手を握り、母の口から...

『虹のコヨーテ』のための準備運動#2 千年の記憶と縄文杉の孤独、カリブーの憤怒の血、溶ける魚たちが蝟集する磁場としてのシュルレアリスム、あるいはダダイストの呪詛におののくダリ

  Forest Lights 千年の記憶と縄文杉の孤独 空を見上げ、人生は流れる雲のようなものだとわかったとき、左の前歯がするりと抜けた。そして、森の奥からパット・メセニーの『TRAVELS』が聴こえてきた。背負っていた荷物をすべて放りだし、音のするほうへ、光のただ中へ向かって走った。森の奥、光の中心にそのひとはいた。森のひとだった。森のひとも左の前歯が抜け落ちていた。「やあ。ずっと待っていたよ」と森のひとは薪割り...

東京の午睡#11「ユリイカ!」と雄叫びをあげたいところだが

 「ユリイカ!」と雄叫びをあげたいところだが    。「ABC予想」の証明の件だ。わからぬ。どうにもならぬ。眠れぬ。「ABC予想」の証明のことが気になって気になって眠れぬ。本当に午睡どころではなくなってきた。案件、取材、面談、打ち合わせはすべてドタキャン。日を繰り延べられるものは繰り延べ、できないものについてはピンチヒッターの弟子どもを投入してお茶を濁す。慶応の仏文を出たばかりの脚線美の誘惑秘書おねいちゃ...

『虹のコヨーテ』のための準備運動#1 ディネの男

  ディネの男は「水を汲んでくる」とだけ言い残してトパンガ・ムーンに行ったきり、帰ってこない。もう11年になる。彼の1958年型フォード・エドセルはガレージで埃をかぶったままだ。 バッテリーは溶けて跡形もないし、4本のタイヤはすべて空気が抜けてぺしゃんこなうえに乾いてひび割れ、エンジン・ルームは鼠どもの寝倉に変わり果てている。 11年のあいだ、月の美しい夜は月を見上げ、雨の日は雨粒を数え、風の強い日はディネ...

東京の午睡#10 「ABC予想」の証明なるか?!

とんでもないニュースが飛び込んできた。整数論の超難問である「ABC予想」を日本人数学者が証明したというのだ。京都大学の望月新一博士(43歳)。欧米のメディアはいっせいに「Incredible」と興奮気味に伝えているが、今のところは査読の結果を待つしかない。ネイチャー誌は「査読には長い時間がかかる」とのコメントを出している。吾輩もいまネット上に公開されている当該論文を読み終えたところだが、はっきり言ってチンプンカン...

コトリのうた #1

  とてもたいせつで正しいこと きょうは木曜日。コトリの水泳教室の日だ。コトリはバスの窓から夏の陽射しにさらされた街に見入っている。コトリは5歳。彼女の背もまっすぐな髪もどんどん伸びている。どんどんまぶしくなっていく。秋がやってきて、冬を越して、春の盛りの頃には、真新しいランドセルを背負ったコトリはもっと大きくなっていて、髪も伸びていて、さらにまぶしく輝いているのだろう。「こんどのプールは木曜日が...

『アメリカの鱒釣り』の死

  午前5時14分。南青山1丁目ツインタワー前。徹夜明けの朝、こわばった心をほぐすために青山通りで跳ねる百万匹の鱒たちの黒ずんだ背びれを眺める。彼らはすべて、『アメリカの鱒釣り』から抜け出してきた誇り高き鱒たちだ。『アメリカの鱒釣り』でリチャード・ブローティガンのことを知ったとき、彼はすでに世界とオサラバしていた。短銃自殺。1984年の秋のことである。私の知らないうちに私の知らない小説家が私の知らない土地...

東京の午睡#9 息の根を止めた外付けHDを前にして

   3年間酷使しつづけた外付けHDが息の根を止めた。ぶっ叩こうが怒鳴り飛ばそうがうんともすんとも言わない。完全なる沈黙。茫然と、しかしいくぶんか陶然と、沈黙を守りつづける外付けHDをみている。3年のあいだに集積された原稿、資料、企画書、報告書、訴状、準備書麺、答弁書、控訴趣意書、講義録等の文書ファイル、iTunes Storeほかで購入した音楽ファイル、折に触れて撮影した画像ファイル、とうてい他者には見せることの...

ヌーヴォ・リブロ・パラディーゾ#4 想像力と、数百円。

  こまっしゃくれたブンガク青年かぶれだった頃、懐にいつも文庫本を忍ばせていた。それは坂口安吾の『堕落論』であったり、アルベール・カミュの『異邦人』であったり、大江健三郎の『セブンティーン』であったり、村上春樹の『風の歌を聴け』であったりした。それらのたった数百円で手に入れることのできた文庫本は、当時の私をあたかも必殺無類の名刀を持っているような気分にしてくれた。「こいつさえあれば世界のすべてをチ...

Anonymous Revolution#1

  Boot up ──Click,Enter,記憶の岸辺/ミュトス・シティ東部沿岸 UTC17時42分ミュトス・シティ唯一の砂浜に打ち寄せる波を数え終えたとき、呪われたアルマジロと虹のコヨーテと黄金のカエルがやってきた。「冬眠を忘れた熊よ、いよいよその時が来たのだ。グレート・マザーに戦いを挑む時が」呪われたアルマジロの言葉は簡潔で自信に満ちているうえに神々しかった。言葉のひとつひとつに神が宿っているのではないかと思えるほどだ...

ヌーヴォ・リブロ・パラディーゾ#3 有栖川の森でアレキサンドリアの幻影をみる。

 わがアザブ・デイズの拠点から歩いて5分足らずのところに有栖川宮記念公園はある。公園内、東側高台の一角を占めるのが東京都立中央図書館だ。目黒区立目黒区民センター図書館とともにわたくしのお気に入りの図書館である。ビートニク・ガールと同道することもあれば、わたくし単独で調べ物、書き物、居眠り、油打ち、沈思、黙考することもある。シークレット・ガールとの逢引きの場所としても重宝している。また、ビートニク・...

ヌーヴォ・リブロ・パラディーゾ#2 ウィリアム・モリスの森/書物の終焉

 iPadのiBooksで『草枕』を読んだ。これまで暗誦できるくらいに何百回となく読み親しんだテクストがまったくの別物という印象を受けた。枕が羽毛から河原の石くれにかわったほどのちがいである。読みすすみながら、なんとは言えない「異和」を感じている自分がいることに気づき、不思議な動揺に見舞われる。書かれている内容は「テクスト」「文字情報」という点から見ればどちらも同じであるのに感じるものの質がまったくちがう。...

ヌーヴォ・リブロ・パラディーゾ#1 『ぴあ シネマクラブ 洋画編』1987年版

  遠い昔にみた映画は楽園の記憶をよみがえらせる。(F. フェリーニ)すべての書物/テクストの類いを処分しようと思いたった。いままで陰に陽に私を支え、励まし、叱咤し、導いてきた彼らに別れを告げるのだ。今後、私の手元を離れた書物/テクストがいったいどのような運命をたどるのか。それを夢想することで残された日々をやりすごせると思うと、いまから胸がときめく。まだ青二才の洟たれ小僧だった私の、「通説、有力説、糞く...

夢二女とヴァン・ドンゲン・ウーマン

  先々週の金曜日の夕方に和光の前で拾った宝くじが二等に当たって棚から牡丹餅で1000万円のお宝がふところに入ったので、自分になにか御褒美をあげようと思って伊東屋でファーバー・カステルのディレクターズ・ペン140番を100本と木箱入りのアルブレヒト・デューラー水彩鉛筆120色セットを買った。眼の下にうっすらと隈をこしらえたすごいような美人の店員を口説こうかどうか思案しているうちに腹の虫がぐうと鳴ったので口説く...

屋根裏部屋の王が創造した「掌の中の宇宙」

 目の前の机の片隅で月明かりを浴び、一個の懐中時計が光っている。眼を凝らすと水晶でできた文字盤に月が映りこんでいる。 掌の中の宇宙に浮かぶ月。 その懐中時計の名は [Marie Antoinette/BREGUET NO.160]。数奇な運命をたどった伝説の時計である。1783年、ルイ16世の妃、マリー・アントワネットは当代最高のキャビノチェ(時計職人)であるアブラアン・ルイ・ブレゲを直接呼びつけ、護衛官を通じて「すべての機構、装飾を盛り...

演劇部の美人部長M子とすごした1975年10月14日(火曜日)の放課後の音楽室【第1楽章】

 「料理はセックスである」と大江健三郎に言ったのは17歳のわたくしであるが、その考えはいまも変わらない。変わらないどころか、より強固に頑迷になっている。わたくしが「料理はセックスである」と考えるに至った出来事について記す。臆病者と偽善者と卑怯者とユビキタスを信じない者はここから先を読んではいけない。「大江健三郎の『敬老週間』を文化祭の出し物として演じたいので脚本と演出を頼みたい」と演劇部の美人部長M...

Appendix

プロフィール

自由放埒軒

Author:自由放埒軒
Festina Lente.
No Pain, No Gain.
Fluctuat nec Mergitur.
R U Still Down Gun 4?
玄妙の言葉求めて櫻花
薄紅匂う道をこそゆけ

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