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三つ編みバンビちゃんが抱えていた真っ白なキャンバスと Life is a work in progress

  横浜YMCAでひと泳ぎした帰路。中華街玄武門際のシーメンズ・クラブでギネス・ビールを飲み、ホット・サンドを食べた。ダブリン市民であるアイルランドの貨物船のセカンド・オフィサーを相手に「物理学における基本粒子」を言いっこしたり、頭突きっこしたり、ギネスを賭けて腕相撲したり、沈黙合戦したり、人文科学と社会科学限定の尻取りをしたり、人類史とアーサー王伝説と『ダニーボーイ』とクラウゼヴィッツの『戦争論』と...

ギャツビーの女

  週末、金曜の昼下がり。都会の喧騒が消え失せた宝石のような時間。オフィス・ビルの壁面のガラスが夏の初めの空と雲と光を映している。仕事は午前中にすべて片づけた。仕事もプライベートもすべては順調で、なにひとつ思いわずらうことはない。これから日曜の夜にベッドにもぐりこむまで、夏の始まりにふさわしいとびきりの時間をすごせる幸福で、心は夏の雨上がりの空のように晴々としていた。 オープン・テラスのテーブルの...

ペーパーバック・トラベラー

  パンナム・エアの時代遅れもはなはだしい曲面の翼をひろげたアトランティック・バード号は空の勇者のように静かに滑走路に舞い降りた。ゲートまで滑るように進み、タラップが大きな音を立ててドアをノックする。ニューヨークからの乗客が一斉に立ちあがる。物理学者が無惨に死に、失踪中の歴史学者のメモが14世紀の地層から発掘されたところでマイケル・クライトンの『タイムライン』を閉じる。開け放たれたドアからバハマの熱...

テプコ・アトミック・ワンダーランドの愉快な仲間たち#2 ヅラメガネ

 最強の官僚キャラ。フクシマの原発事故後、会見にのぞむ原子力反安全・不安院の担当者がついついほんとのことを言っちゃったり(「溶けちゃってます。メルト・ダウンです」)、黙秘したり(「…。」「……。」)、ふてくされちゃったり(「もう3日も寝てないんで、手短に簡潔にやりましょうよ」)という失態によって次々に更迭されたのを受けて、急遽、環太平洋村から呼び寄せられたヅラメガネは、初めのうちこそ苦手な理系問題にへどもど...

テプコ・アトミック・ワンダーランドの愉快な仲間たち#1 デタラメ・ハルキンボ

 原子力不安全の番人、原子力不安全委員会の長である。デタラメくらい出鱈目で軽薄で無責任で無能で姑息な輩にはそうそうお目にかかれまい。サンイン予算委員会に参考人としてお呼びがかかり、きっつい質疑の矢面に立つデタラメのうろたえぶり、ビビりぶりは見物であった。ロッキード事件にかかわる証人喚問のときのオサノ(「記憶にございません。」)ケンジ、ダグラス・グラマン事件の証人喚問で宣誓書に署名するときにガクブルし...

漂えど沈まず、悠々として急げ #1

  遠い日、いまよりはるかに生き急いでいた頃、パリのバスチーユ地区にある安宿に秋の終わりからパリ祭直前までのおよそ8ヶ月のあいだ暮らした。アーネスト・ヘミングウェイが『移動祝祭日』の中で「人生のある時期、パリに暮らした者には一生涯パリがついてまわる。なぜなら、パリは移動祝祭日だからだ」と書いたくだりを自分自身の眼と耳と鼻と舌と肌で検証しようというのが旅の動機だった。と言えば聞こえはいいが、当時、個...

横浜市立大学、シェークスピア・ガーデン、平潟湾の夕暮れに流した涙のゆくえ

  昔々、横浜で。    高校生の頃、安くてくそまずいコロッケ定食を食うだけのために金沢八景にある横浜市立大学の学食に忍び込んだことがある。コロッケは1個、キャベツ山盛り。申し訳ていどの漬け物と色がついているだけの味噌汁。140円也。「これじゃ、コロッケ定食じゃなくてキャベツ定食じゃんよ」 配膳口で学食のおばちゃんにそう言うと、おばちゃんは「じゃ、これ、オマケ」と言ってとんかつとコロッケを皿にのせてく...

ダニーボーイの夢/かなわぬ夢と知りながら

  目下のところのもっとも甘くほろにがい夢は、アイルランドの鉛色の海を見下ろす断崖の際にひっそりと建つ小さな家で、わが人生の同行者である虹子と一番弟子のミニチュア・セントバーナードのポルコロッソに看取られながら、それまでの人生で聴いた最高の『ダニーボーイ』を聴きながらくたばることである。どうせくたばってから行きつく先は鬼か亡者か閻魔が待ちかまえているようなところであろうから、せめてくたばるときくら...

【霊長類最強の男が負けた日】異形の王、アレクサンドル・カレリン

  霊長類最強の男が負けた日2000年9月27日、シドニー・オリンピック、レスリング・グレコローマン・スタイル130kg級決勝。霊長類最強の男が負けた。それもノー・マークの、ただ体重が重いだけの凡庸な若者に。不敗神話はついに終止符を打った。格闘王・前田日明をして「どの分野でも強い人間はいるが、カレリンはまちがいなく『最強』だ」と言わしめた「最強の男」は、表彰台で終始、視線を落としたままだった。マットを降りると...

【センス・エリート100箇条】

  30歳を目前にした熱い夏、ある輸入ビールの広告制作の依頼が舞い込んだ。当時はキリンビールが圧倒的なシェアを有していて、どいつもこいつも当たり前のようにキリンビールを飲んでいた。そういった状況に異議申立てしたかった。そして、「センス・エリート/1番が1番いいわけではない。1番ではないことがクールでカッコイイことだってある」というコンセプトで企画を立て、広告文案を書いた。自分自身に言い聞かせるような意味...

17歳の地図 ── わが安吾体験

  人間は変わりはしない。ただ人間に戻ってきたのだ。人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。AN-GO17歳の夏、「自殺」を解読しようとしたことがある。自殺の動機、方法、自殺者の年齢、職業、性別など、「自殺」にかかる事柄のすべてを収集分析し、定量化しようという無粋な試...

目的語のない女が「待つこと」に疲れはじめた夏の朝

「わたしだけ、ひとりぼっち」と目的語のない女は言った。わたくしには目的語のない女にかけるべき言葉のひとかけらもなかった。彼女の味わっている孤独と不安と困難を癒すことのできない己が不徳、不甲斐なさにはらわたがよじれた。 1995年冬。17年前から始まったジェットコースター・デイズをともに生きてきた戦友でもある目的語のない女。いつも予告なく姿を消すわたくしと、ただひとり代々木の殺風景な部屋に取り残される目的...

過ぎてゆく毎日に大事なものを忘れそうで

  徹夜明けの朝、誰もいない部屋。虹子はとうに仕事に出かけている。何時間もひとりぼっちにされたポルコロッソが足元にじゃれついてくる。テーブルの上、きゅうりのサンドウィッチとトマト・ジュースの横に2枚のCDが置いてある。JUJU『ただいま』とAI『MIC-A-HOLIC A.I.』。「聴いて。JUJUの『ただいま』から聴いて。そのあと、AIの『Story』を聴いて。虹.」とへたくそな字で書かれたメモが添えられていた。虹子だ。私がJ-POPが...

七里ヶ浜駐車場レフト・サイドで2000tの雨に打たれるまであと7日と13時間29分

  曖昧で、名前すらつけることのできない空を見上げながら雨の気配を探る日々。かつて、われわれはそのような日々を「夏休み」と呼んだ。夏のはじまりにふさわしい純真と清冽と茫洋とあらかじめ失われた彼女の指先と彼女の「人生との和解」を見つけだすためにこそ私の夏はあった。 遠い日の冬の夜明け前。「あなたが帰ってくるとわたしの夏は始まるの」と彼女は言った。乳白色の手の中にティー・カップを包みこんだまま。「人生...

哀しい視線 ── 小林秀雄といふ事

 「小林秀雄が生きていれば」と思うことがよくある。戦後、たちまちキャラメルママ・デモクラシーのまやかしにしてやられ、そのふしだらきわまりもない言説に迎合したあげく、" 進歩的文化人 " に変貌したり、懺悔したりする知識人らを尻目に、「頭のいい人はたんと反省するがいい。僕は馬鹿だから反省しない」と小林秀雄は言い放った。清潔な態度に深い共感を持った。 この夏、小林秀雄の評論集『無常といふ事』をゆっくり時間...

逆説の犬/パラドクス・ドッグス

 わが愛犬、くんちゃんのことを『フツーの犬のこと』に書いて以降、驚くほど多くの方々から問い合わせのメッセージをいただいた。中には、「あんたには犬を飼う資格はない!」「いまごろ、くんちゃんは涙で目を泣きはらしているぞ!」「かわいそうに! あんたのしたことは動物虐待とおなじだ!」「犬にだって犬の権利、犬権があるんだ! 幸福で文化的な最低限度の生活をする権利は憲法で保障されているんだ!」というお叱りや、「...

ミサキちゃんは新幹線に乗って

  午前零時。インターネット・ラジオから松任谷由実の『シンデレラ・エクスプレス』が聴こえてきた。遠い日、シンデレラになりたがっていた不思議な女の子のことが思い出された。1985年の秋の終わりの七里ヶ浜駐車場で知り合った女の子は1987年のクリスマス直前まで、毎週末大阪から新幹線に乗ってやってきた。私といっしょに週末を過ごすためだ。女の子の名前はミサキちゃん。彼女の健気さと純真さは宝石のようだった。私が七里...

あなたと夜と音楽と #1

 籠もり部屋(隠れ家)ができた。今日は籠もり部屋の初日にして徹夜仕事だ。籠もり部屋の存在は誰も知らない。わが人生の同行者も知らない。ポルコロッソにだけは教えた。いまもすぐそばで寝息を立てている。籠もり部屋を持とうと思い立ったときから籠もり部屋には必要最小限のモノしか置かないことを決めていた。机、椅子、冷蔵庫、グラスと食器類、PC、プリンター、そしてオーディオ・システム。机と椅子は arflex の中古が信じら...

フツーの犬のこと

 ワン公を里親に出した。ワン公の名前はくんちゃん。つきあいは17年になる。灰色の、冴えない、ごくごくフツーのワン公であるくんちゃんは、ある時は私を励まし、ある時は私を叱咤し、ある時は私を勇気づけてくれる、サイコーにゴキゲンなやつだった。  くんちゃんと初めて会ったのはバブルがはじけ、街からけばけばけばとげとげした空気が消え、だれもがフツーであることになにかしらの魅力を感じはじめた頃だった。夕暮れどき...

一番弟子のポルコ・ロッソ、この夏最後のおめかしをする。

 世界にただ一頭のミニチュア・セントバーナードのポルコ・ロッソが2012年夏最後のおめかしに出かけた。朝10時にお迎えがきて、帰宅は15時。5時間の一大イベントである。人間さまならCDを2、3枚聴き、空模様をうかがい、机の上を片づけ、妄想し、鼻くそをほじり、ついでに鼻毛を抜き、耳くそをほじり、ついでに耳毛を抜き、ネットの掲示板でラバトリ・グラフィティをし、さらに妄想し、トホホなニュースねたを探し、ザラ場チェッ...

フィネガンズ・ウェイクを食べた犬

→KOFFの月に一度のスペシャル・セールで手に入れた『フィネガンズ・ウェイク』を読むにはうってつけの午後だった。リラの花影が揺れる窓辺では水曜日の午後の野毛山動物園から飛来した42羽のクォーク鳥たちが「クォーククォーククォークダンテブルーノヴィーコジョイス クォーククォーククォークダンテブルーノヴィーコジョイス クォーククォーククォークダンテブルーノヴィーコジョイス」と3度鳴き、台所では年老いた大工の棟梁...

バトゥンガの男

 朝、窓をあけるとアンジェリック・キジョの『バトゥンガ』が聴こえた。音のするほうに目をやると、髪を短く刈りこんだいかつい男がこちらを見ていた。男は短躯でいかつかったが、どこか愛嬌のある顔をしていた。アンジェリック・キジョが「バトゥンガ!」と歌うところで、同時に男は漢字の「大」の字のかたちに両腕両足をひろげてジャンプした。目を凝らしてよくみると、男の左肩上には黒いしみのような点がジャンプのたびに浮か...

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自由放埒軒

Author:自由放埒軒
Festina Lente.
No Pain, No Gain.
Fluctuat nec Mergitur.
R U Still Down Gun 4?
玄妙の言葉求めて櫻花
薄紅匂う道をこそゆけ

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