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根岸線とジョニ黒と『善悪の彼岸』

   昔々、横浜で。根岸線。そう口に出すだけで甘酸っぱくなつかしい気分になる。桜木町止まりだった京浜東北線が磯子まで延長になったときは開通式典に物見遊山で出かけたものだ。まだ洟垂れ小僧の私には生まれてはじめての一大イベントだった。磯子の駅前が大きな舞台のように見えた。横浜市消防局の音楽隊が景気のいい音楽をジャカスカ鳴らしていた。色とりどりの風船が舞い踊っていた。どいつもこいつも幸せそうだった。宙を...

昔々、横浜で ── リキシャ・ルームで人生最大の恐怖と幸福を味わった瞬間

   遠い日の冬。私は20歳になったばかりで、ビートニク・ガールとは3度目の絶交期に入っていて、高校1年のときから応募しはじめた群像新人賞に5回連続して最終選考で落とされ、挙げ句の果てにはナイーブ・ロースハム系ウガンダ人のハルキンボ・ムラカーミというスパゲティ野郎にまんまと群像新人賞をかっさらわれ、世界やら人間やらに対して希望と信頼を失いかけていた。「スパゲティ・バジリコ」なんて存在すら知らなかった。...

言いだしかねて/バレンタイン・デイの思い出

  クリフォード・ブラウンの『I can't get started with you』を聴くたび、ある光景がよみがえる。私は高校2年生で、同級生の女の子と恋をしていた。彼女は歯医者の娘で、スレンダー&クールな美人で、生徒会の役員で、「死んじゃう」が口ぐせで、おまけに歌がうまかった。彼女が身につけているものはどれもとびきり上等なものばかりだった。うまいことおだて、すかし、口車に乗せて、ずいぶんといろいろなものをせしめた。せし...

演劇部の美人部長M子とすごした1975年10月14日(火曜日)の放課後の音楽室【第1楽章】

 「料理はセックスである」と大江健三郎に言ったのは17歳のわたくしであるが、その考えはいまも変わらない。変わらないどころか、より強固に頑迷になっている。わたくしが「料理はセックスである」と考えるに至った出来事について記す。臆病者と偽善者と卑怯者とユビキタスを信じない者はここから先を読んではいけない。「大江健三郎の『敬老週間』を文化祭の出し物として演じたいので脚本と演出を頼みたい」と演劇部の美人部長M...

忘れえぬ喰いもの#1 隠し味は一粒のダイヤモンド

  中学2年の秋。「塩の、お、むす、び、と、プ、レー、ン、オ、ムレ、ツ、と、冷た、い、だ、い、こ、ん、の、お、み、お、つけ、が、食べ、た、い」 死の床で母親は息も絶え絶えに言った。片手で持てるくらいに小さくなった母親の小さな言葉は秋の初めの薄闇の中にゆっくりと消えていった。 私は仲たがいしている隣家に出向き、事情を話し、下げたくもない頭をなんべんも下げ、米と味噌と玉子と煮干しと大根を借りた。そして...

Eagle 810/鷲は米軍横田基地を飛び立ち、17歳の若者に舞い降りた。

「フレデリック・ニコラス・ラボンディが死んだ。16号線でトレーラーと正面衝突だ」 横浜時代の古い友人は電話口で声を震わせた。1975年から1977年までの2年間、フレデリック・ニコラス・ラボンディはFENのDJをやっていて、私は彼の熱烈なファンだった。ファン・レターを書いたことすらある。フレデリック・ニコラス・ラボンディの名前を聞くと1975年の夏を思いだす。そして、彼の声がよみがえってくる。 1975年に横浜とその周辺...

『レジメンタル・タイの思い出』と『レジメンタル・タイの思い出』の思い出

 初めてレジメンタル・タイを買ったのは18歳、高校の卒業式の前日だった。元町のPOPPYまで出かけていき、ショウ・ケースにずらりとならんだタイの中から僕が選んだのはシャンペン・ゴールドの地にグリーンの細いストライプが入ったやつだ。よく糊のきいた白いBDシャツにそのレジメンタル・タイを締め、兄貴からのお下がりのブルックス・ブラザースのかなりくたびれたブレザー・コートを着てフェアウェル・パーティーに出かけた。...

三つ編みバンビちゃんが抱えていた真っ白なキャンバスと Life is a work in progress

  横浜YMCAでひと泳ぎした帰路。中華街玄武門際のシーメンズ・クラブでギネス・ビールを飲み、ホット・サンドを食べた。ダブリン市民であるアイルランドの貨物船のセカンド・オフィサーを相手に「物理学における基本粒子」を言いっこしたり、頭突きっこしたり、ギネスを賭けて腕相撲したり、沈黙合戦したり、人文科学と社会科学限定の尻取りをしたり、人類史とアーサー王伝説と『ダニーボーイ』とクラウゼヴィッツの『戦争論』と...

横浜市立大学、シェークスピア・ガーデン、平潟湾の夕暮れに流した涙のゆくえ

  昔々、横浜で。    高校生の頃、安くてくそまずいコロッケ定食を食うだけのために金沢八景にある横浜市立大学の学食に忍び込んだことがある。コロッケは1個、キャベツ山盛り。申し訳ていどの漬け物と色がついているだけの味噌汁。140円也。「これじゃ、コロッケ定食じゃなくてキャベツ定食じゃんよ」 配膳口で学食のおばちゃんにそう言うと、おばちゃんは「じゃ、これ、オマケ」と言ってとんかつとコロッケを皿にのせてく...

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自由放埒軒

Author:自由放埒軒
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Fluctuat nec Mergitur.
R U Still Down Gun 4?
玄妙の言葉求めて櫻花
薄紅匂う道をこそゆけ

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