FC2ブログ

Entries

谷中びとの時間/ある若い友人との「再会」

  五月。三社祭の頃だった。浅草寺観音堂裏の洋食屋、『グリル グランド』で昼飯を食べた。パン・コキーユがこの店の名物にして一番人気である。芸者遊びにうつつを抜かしていた時代、いまはなき「治乃家」の離れの座敷でよく出前した。当時、売り出し中だった胡徳やまいこや千晶や香名恵の芸者衆とともになつかしい。「パン・コキーユ」は食パン半斤の中身をくりぬき、できた空間に絶品のベシャメル・ソースにからまったマカロ...

ニザン、バラ色の人生、うしろ姿のしぐれてゆくか

  2012年秋。ニザンはしたたかに酔っぱらい、足元もおぼつかない風情でローソンの前にたたずんでいた。ニザンがついにやってきたのだ。「酒ある?」 ニザンは酒臭い息で言った。「あるよ」と吾輩がぶっきら棒に答えるとニザンはこっぴどく叱られたミニチュア・セントバーナードの仔犬みたいな眼をした。「御機嫌がお悪いんですか? 怒っていらっしゃるんですか?」「馬鹿野郎! いきなり丁寧語になってんじゃねえよ! ニュート...

東京の午睡#14 『老人と海』の死、サンチャゴの憤怒

  528回目の『老人と海』を読み終えたときだった。Mac mini を起動し、メールをチェックし、何通かの返事を書き、Safariを立ち上げ、Wikipedia でメールの中にあった文言、「Judicium Difficile」を調べ、ベランダ越しに寝ぼけまなこの観音崎灯台に向かって「Ars Longa! Vita Brevis!」と大音声を発して喝を入れたのち、『アノニマス・ガーデン』のページを開いた。1通のメッセージが届いていた。「わたぢのおともたちが自さつし...

東京の午睡#13 放蕩息子の帰還/志ん生に入門かなわず明烏 あざなう縄は芝浜の 母は千代女の傾城屋

 生物学上の父親は早稲田の学生の時分、なめくじ長屋に五代目古今亭志ん生を訪ね、入門を乞うた。半日ねばったが入門はかなわなかった。これは生物学上の父親とわたくし、二人の男の人生の一番目の綾である。もし、生物学上の父親が古今亭志ん生に弟子入りを許されていれば、まちがいなくわたくしがこの世に生をうけることはなかった。 徴兵後、梅機関の特務機関員として大陸で悪逆非道のかぎりをつくし、ニューギニアのジョスン...

東京の午睡#11「ユリイカ!」と雄叫びをあげたいところだが

 「ユリイカ!」と雄叫びをあげたいところだが    。「ABC予想」の証明の件だ。わからぬ。どうにもならぬ。眠れぬ。「ABC予想」の証明のことが気になって気になって眠れぬ。本当に午睡どころではなくなってきた。案件、取材、面談、打ち合わせはすべてドタキャン。日を繰り延べられるものは繰り延べ、できないものについてはピンチヒッターの弟子どもを投入してお茶を濁す。慶応の仏文を出たばかりの脚線美の誘惑秘書おねいちゃ...

東京の午睡#10 「ABC予想」の証明なるか?!

とんでもないニュースが飛び込んできた。整数論の超難問である「ABC予想」を日本人数学者が証明したというのだ。京都大学の望月新一博士(43歳)。欧米のメディアはいっせいに「Incredible」と興奮気味に伝えているが、今のところは査読の結果を待つしかない。ネイチャー誌は「査読には長い時間がかかる」とのコメントを出している。吾輩もいまネット上に公開されている当該論文を読み終えたところだが、はっきり言ってチンプンカン...

東京の午睡#9 息の根を止めた外付けHDを前にして

   3年間酷使しつづけた外付けHDが息の根を止めた。ぶっ叩こうが怒鳴り飛ばそうがうんともすんとも言わない。完全なる沈黙。茫然と、しかしいくぶんか陶然と、沈黙を守りつづける外付けHDをみている。3年のあいだに集積された原稿、資料、企画書、報告書、訴状、準備書麺、答弁書、控訴趣意書、講義録等の文書ファイル、iTunes Storeほかで購入した音楽ファイル、折に触れて撮影した画像ファイル、とうてい他者には見せることの...

「フランツ株価有料化」の衝撃、宇宙に走る!

 グレゴール・ザムザ氏がカブト町2丁目1番地先、カブカの海辺の蕪の家の株価下から追証惨殺体で見つかった事件を受け、フジョーリ政府はけさ、フランツ株価の全面有料化に踏み切る方針を示した。なお「グレゴール・ザムザ殺人事件特別捜査本部」はグレゴール・ザムザ氏殺害の重要参考人として、株の先物取引をめぐるトラブルからグレゴール・ザムザ氏にがぶり寄りをくらわせ、もってこれまた同氏に全治2週間のけがを負わせたうえ...

「食に関する質問状」への不誠実きわまりない回答(そんなことより、なんか喰わせろ!)

Q1 次のメニューにどんな調味料をかけますか? ・目玉焼き・・・モンゴル産岩塩 『蒼き狼』・納豆・・・調味せず。納豆は完全食である。「なにも足さない。なにも引かない。」が正しい。(粂納豆を常食している)・冷奴・・・調味せず。豆腐は完全食である。「なにも足さない。なにも引かない。」が正しい。せいぜいが山葵のおろしたて添付。(『風に吹かれて豆腐屋ジョニー』いいよ、『風に吹かれて豆腐屋ジョニー』)・餃子・・・喰わない。だか...

1994年5月1日、春のイモラに散ったアイルトン・セナ・ダ・シルバのこと

 「クモモの樹探索」から帰還し、おそい午睡をとった。そして、アイルトン・セナと春のやわらかな陽射しにあふれる隅田川沿いを散歩している夢をみた。セナは愁いと甘さと哀しみとを含んだ微笑を浮かべ、陽の光を反射してきらきらと輝く隅田川の流れをみつめていた。セナが「境界のボート」に乗り込んだところで夢は終わった。すでに夕暮れどきをすぎ、街は闇に沈んでいた。目がさめると涙が一筋、頬をつたっていた。闇の中でセナ...

午睡後、コルコバード星の散歩の途中、WAVEで産婆ノートを買い、アイルトン・セナ・ダ・シルバが眠るイモラ・サーキットのタンブレロ・コーナーにおいしい水を供えにイパネマの娘と思った矢先の出来事だった。

  夕暮れどき、まだ夏の盛りの余韻が残る神宮外苑の銀杏並木を鉄の馬で疾走中にとびきりの『Desafinado』は聴こえてきたのだった。愁いを含んでほのかに甘いアクースティック・ギターの調べに乗って。 ホブソン・コヘア・ド・アマラル。生粋のカリオカ、リオ・デ・ジャネイロっ子だ。1月の川はたいてい冷たいがホブソンは明るく暖かくやさしい。シンガーであり、ギタリストであり、パーカッショニスト。在日13年。カタコトの日...

目的語のない女が「待つこと」に疲れはじめた夏の朝

「わたしだけ、ひとりぼっち」と目的語のない女は言った。わたくしには目的語のない女にかけるべき言葉のひとかけらもなかった。彼女の味わっている孤独と不安と困難を癒すことのできない己が不徳、不甲斐なさにはらわたがよじれた。 1995年冬。17年前から始まったジェットコースター・デイズをともに生きてきた戦友でもある目的語のない女。いつも予告なく姿を消すわたくしと、ただひとり代々木の殺風景な部屋に取り残される目的...

過ぎてゆく毎日に大事なものを忘れそうで

  徹夜明けの朝、誰もいない部屋。虹子はとうに仕事に出かけている。何時間もひとりぼっちにされたポルコロッソが足元にじゃれついてくる。テーブルの上、きゅうりのサンドウィッチとトマト・ジュースの横に2枚のCDが置いてある。JUJU『ただいま』とAI『MIC-A-HOLIC A.I.』。「聴いて。JUJUの『ただいま』から聴いて。そのあと、AIの『Story』を聴いて。虹.」とへたくそな字で書かれたメモが添えられていた。虹子だ。私がJ-POPが...

東京の午睡#1 序・前口上

  「東京の午睡」と書いて「とうきょうのひるね」と読む。『東京の午睡』は東京に生きるわたくしの寝言やら独り言やら繰り言やら小言やら諫言やら暴言やら失言やら遺言やらを、できうれば「東京事(とうきょうごと)」乃至は「東京事態(とうきょうじたい)」を踏まえつつ、ほぼ自動書記で、ということはつまり、思うまま考えるまま感じるまま見たまま聴いたまま推敲やら加筆やら訂正やらなしに書き殴り、書き飛ばし、書き放ち、書き...

Appendix

プロフィール

自由放埒軒

Author:自由放埒軒
Festina Lente.
No Pain, No Gain.
Fluctuat nec Mergitur.
R U Still Down Gun 4?
玄妙の言葉求めて櫻花
薄紅匂う道をこそゆけ

最新トラックバック

カテゴリ

Festina Lente.

R U Still Down Gun 4?

カレンダー

10 | 2019/11 | 12
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
832位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
137位
アクセスランキングを見る>>

QRコード

QR

樽犬の子守唄

Didie Merah
Blessing of the Light

樽犬が全速力で探します。